9歳の壁
3月 6th, 2009
昭和の終わり頃から、「9歳の壁」という言葉をときどき耳にするようになりました。 すでに、9歳、4年生という時期の重要性について何回か書きましたので、この言葉の意味についておおよそ察しのついた方もおられることでしょう。今回は、この言葉の指摘する内容について考えてみたいと思います。
子どもにとって「話し言葉」と「書き言葉」とでは、どちらがコミュニケーションの道具として使い易いでしょうか。これはお聞きするまでもありませんね。「話し言葉」は、人と人とが対面する具体的状況で用いられる言葉であり、表情や身振りや手振りも交えることができます。書き言葉を学び始めたばかりの子どもどころか、大人だって「話し言葉」の方が自分の思いを伝えやすいに決まっています。
しかしながら、学校での学習場面ではいつまでも「話し言葉」というわけにはいきません。学年が上がるにつれて活字による学習が中心となり、学ぶ内容も徐々に高度になってきます。こうなると、書き言葉をもとにイメージを描いたり、ものごとを理解したりすることができなければ、学習は成り立たなくなってきます。また、思考自体もそれまでの直感的思考から、書き言葉を頭の中で組み立てていく、論理的思考へと質的に変わっていくことが求められてきます。
このように、間接経験によって知識を得たり、書き言葉の脳内操作によって思考したりするレベルに到達してこそ、複雑なやりとりが可能になってきます。こうした能力を子どもが獲得していくのは、普通9歳頃だと言われています。
「9歳の壁」は、聴覚障害児がこうした書き言葉の機能を獲得すべき9歳という時期になっても、なかなかうまくいかないことから呼ばれるようになった言葉だそうです。ところが、こうした現象は何も聴覚障害児だけではないということが、学校現場などからの報告で知られるようになりました。言葉の抽象性を理解し、より高度なコミュニケーションが可能になるはずの9歳になっても、なかなかそれができないで難渋する子どもが少なくないのです。
こうしてみると、9歳の壁は何も特別な子どもの問題ではなく、ごく一般の健常児にとっても無関係とは言えない問題だと言えそうです。実際、中学受験をめざしているお子さんを見ても、国語の成績がサッパリのお子さんは、文字によって表現されていることをイメージ化する力が弱く、書かれている内容の真意をつかむことに難渋しているケースがほとんどです。
わが子の言葉と思考の発達に、若干の不安を覚えておられる方はありませんか? あるいは、お子さんが国語への苦手意識をもっておられたり、本を読もうとしないのでどうしたものかと思っておられるご家庭もおありかもしれません。筆者はその道の専門家ではありませんが、言葉の発達と学力形成は密接な関係をもっていますから、このブログでは継続的にこの問題にアプローチしてみるつもりです。
なお、子どもの思考の発達に関わる問題ですから、短期間に目に見える成果はあがりません。1年、2年と、かなり長いスパンで子どもに働きかけ、見守る必要があります。また、内面の発達は、書き言葉と話し言葉の両方が密接に関わっていますから、どちらについても配慮すべきです。その理由について書くと長くなりますし、脳内の言語中枢などについて言及することになり、複雑になりますので、いずれ機会を改めてお伝えしようと思います。