子どもを上手に自立させるおかあさん
月曜日, 12月 12th, 2011
前回は、“深い話”ということで記事を書きましたが、ほとんどが前置きになってしまい、すみませんでした。あとで、私が「深いな」と思った他の経験が頭をよぎりましたので、今回はそのことについて書いてみます。少しでもおかあさんがたの参考になれば幸いです。
これからご紹介するのは、「いかに自立した勉強のできる子どもに育てるか」についてヒントをくださったおかあさんの話です。ひょっとしたら、だいぶ前に一度この話を書いたかも知れません。
ある日、6年生の男の子が休憩時間に話しかけてきました。
「うちのおかあさんって、ひどいんだ。先生も知っているように、ボクは算数が苦手なんだけど、算数のテスト結果が出るたびに、おかあさんは成績をみては目くじらを立てて怒るんだ。そのくせ、ボクができなかった問題、おかあさんは何一つ解けないんだよ(この言い回しがとても面白く、今でもはっきりと覚えています)。」
どうでしょう。この話だけでは、私が「深い」と思った理由はおわかりにならないと思います。また、もしも、この男の子が悲痛な表情を浮かべ、「何とかしてよ」と言わんばかりの表情を浮かべていたのなら問題です。しかし、この男の子はそうではありませんでした。さも愉快そうにニコニコと、輝くような笑顔を見せていたのです。
私は、こんなすばらしい笑顔で家庭のエピソードを語ってくれるお子さんを育てられたおかあさんに対して「いい子育てをされていますね」と言ってあげたくなりました。
彼には、どうしても行きたい私学がありました。入試では、その私学に見事受かりました。何とか苦手の算数を克服したのです。
後日、私はこのおかあさんのことを思い出し、子どもを自立させる方法を教えていただいたような気がしました。もしもこのおかあさんが算数を得意にしていて、息子さんを叱りとばしながら問題の解き方を教えていたらたならどうだったでしょうか。彼はあのときのような輝く笑顔を浮かべていたでしょうか。
私は以後、この話を「子どもを自立させるすばらしいおかあさんの例」としてご紹介しています。
「このおかあさんはたいしたものです。息子さんを11歳にして『親は頼りにならないものだ。自分でやるしかない』と自覚させ、自力で勉強する人間に育てておられるではありませんか!」
こう言うと、大概どっと会場が湧きます。そして、和やかな雰囲気が会場に立ちこめてきます。この話は皮肉でも何でもありません。「算数の問題の解き方を教えてやろう」と、一生懸命なおかあさんを目の当たりにして、息子さんはそれだけで十分な思いをしたのではないでしょうか。おかあさんの期待と愛情を、息子さんは肌で感じ取っていたのです。ガミガミ叱りながら算数の問題の解き方を教えるおかあさんよりも、このおかあさんのほうが何十倍も子どもを奮起させているように思います。
最近のおかあさんの多くは大学を出ておられます。親の学歴が高いというのは、子どもに有利だと思いがちですが、そうでないケースも少なくありません。親に教えられるたびに、「とても親のようにはできない」と子どもに思わせることになりかねません。
「こんな問題も解けないの?」「こんなの簡単じゃない。いったい何をやっているの!」などとハッパをかけられているお子さんもいるようですが、これは励ましにはならず、子どもに苦痛を与える結果になっていることに是非気づいていただきたいと思います。
一方、子どもが張り切って勉強に取り組むよう、上手に導いておられるおかあさんもおられます。あるとき面談をしていたら、親が家で教えているのかどうかという話題になったことがあります。するとそのおかあさんは、「私、問題を見ても全然わからないから、そう子どもにも言っているんです。『おかあさん、こんな算数の問題なんて解けない。随分難しいのをやっているのね』って言っているんですよ」
とお答えになりました。
とても聡明そうなおかあさんでしたから、お子さんを教えることぐらい十分できたのかもしれません。しかし、そのおかあさんはわからない振りをして、お子さんに自分でやるよう励ましておられたではないかと私は思いました。効果的な高等戦術です。言うまでもありませんが、そのおかあさんの息子さんはとても優秀でした。
親のわが子に対する言動のほとんどは愛情や期待に基づくものです。しかし、子どもがそれをどう受け止めるかが重要なことです。親が優秀であるということが、子どもにとっては負担になることもあります。おかあさんにしかできない、わが子の奮起につながるような接し方を工夫をしてみてください。きっとよい方法があるものです。