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2017年度の作品

No.9 『 遠くへ、遠くへ、飛んでいけ 』
                  学院中・修道中・城北中/Sさん

「お母さん、ダメでも死ぬわけじゃないよね。行ってきます!」
 学院の入試会場、いよいよ校舎に入るというタイミングで息子がつぶやいた言葉。あぁ、とうとうこの子は腹をくくったんだな。緊張で強張っていた表情が少しずつ緩み、元気に手を振りながら階段を上がっていく後ろ姿を見送りながら、親ができるのはここまで、とさみしいような達成感のような、複雑な感情でその場を後にしました。
 息子の受験が本格的に始まったのは4年部からでした。毎朝5時に叩き起こしてつきっきりで復習、それでも椅子に座る習慣を付けるのがやっと。5年部が始まると4科目に増え、しかも反抗期突入。予習も始まり、つきっきりになる時間が増える=親子喧嘩の時間が増える、といった毎日。今思い返しても、本当に激しいバトルを繰り広げたものでした。この頃も一生懸命説明する母親の私が受験するのか?という程、相変わらずの他人事。成績も3桁と2桁の順位を行ったり来たり。
 そんな状況で迎えた6年部。不安しかない現状に悩んでいた頃、配布された「GET」。読めば読むほど優秀なお子様ばかり、全然参考にならない……と自暴自棄になりかけていた私がふと目を留めた保護者の部の作品。そこにはこんな事が書かれていました。「『親は親、子は子であって違う人生である。子供の受験は子供の問題であって、親がするものではない。』それを知ってからは、子どもが自分でできる範囲をした結果がその子の結果なんだと思えるようになりました。」
 私はまさに目から鱗、でした。それまではど根性だとか、滅私奉公だとか、本人の血の滲むような努力、私の涙ぐましい犠牲があればなんとかなるのでは、と思っていました。でも違う。なかなか勉強しないのは食後になかなかお皿洗いを始められない私の遺伝、何度言っても図や式を書かず手を抜こうとするのは手抜き料理の多い私のDNA。とんびはとんびしか産めない。鷹になれるはずもない。
 そう悟ってからは、下校後テレビばかり見ている息子にも「疲れて帰るとゆっくりしたくなるよね」と見守りつつ「少しでも課題をやっておくと後で気分がいいよ」と声掛けをするように変わっていきました。自分がハッピーになれることを積極的に取り入れるようにもしました。母親の笑顔があれば男の子は頑張れる。それを信じて。
 もちろん、だからと言って息子の成績が急上昇することはありませんでしたが、少しずつ「母親の受験」から「自分の受験」に意識改革したようで、模試の付き添いも断るようになり、やるべき課題のアドバイスも「お母さん、オレはオレなりに考えているから、口出ししないで。」とまで言うように。あんなに他人事だったのに。人って変われば変わるもんです。
 そして迎えた学院の入試当日。「いつも100点取っている秀才君も、緊張して力が出せなければ80点。でも普段70点しか取れない人が100%の力を出して、さらに火事場の馬鹿力を出せたら、もしかしたら80点に届くかもしれない。だから全部出し切っておいで。『ダメでも死ぬわけじゃない。』」そうして送り出した息子は「やり切った、一切悔いなし!」と最高の笑顔で私の元に戻ってきてくれました。そしてその開き直りが奇跡を呼んでくれました。
 育児において、私が理想だと思う形があります。「親子は弓矢。一緒には飛んでいけない。弓は矢を出来るだけ遠くに飛ばせるように、弓を張るだけ。」この受験を通して少しでも遠くに飛ばせたかな。弓の出番もそろそろおしまいかもしれません。
 最後に、すべての受験生が来年も、程よい心の「張り」を持ちつつ、しなやかに矢を飛ばせることを心から願っています。

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