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2017年度の作品

No.7 『  合格したときのよろこび 』 学院中/Aくん

「まあしょうがないよ。あれだけ受けてこれだけしか受かってないんよ。」
と母は合格者の番号を見ながら言った。
「じゃけえそんなに落ちこみんさんなって。」
はげましてくれている。感謝を伝えないといけない。分かってはいるけど今はもう何も考えたくないし、言いたくないし、動きたくないし、顔も見せたくなかった。ぼくは車の中でうつむき、自分のくつを見ていた。はきなれたお気に入りのくつ。それさえ今は見たくなかった。
『そうか。じゃあ学院がんばりんさいね。』
「さっき母さんにも言われたよ」とは言わず「うん。」と言って電話を切った。申し訳なかった。ぼくが附属に受かることをとても期待してくれていた父と母を裏切るようなことになってしまって。そう、ぼくは広島大学附属中学校に落ちたんだ。もちろん父と母は落ちたぼくを責めたりはしない。(よし、いいかげん気持ちを入れかえよう。そして学院でがんばろう。)
ポジティブになることで自分の悲しみをごまかした。でも学院でがんばろうという気持ちはうそじゃない。だからぼくは気持ちを入れかえた。でも。でもやっぱり「受かったときのよろこび」を味わってみたかったなぁ、と思った。

「よかったねえ、これからはしっかり楽しみんさいよ。じゃあね。」
ばあちゃんからだった。母には、「学校から帰ってきたらパソコンで合格かどうか見なさいね。もし受かっとったら母さんは学院に行ってくるけえ帰りはおそくなるよ。」と言われていた。言われていたとおり、ぼくは学校から帰ってきたらパソコンで合格かどうか見た。
「はあ……。」
ぼくはため息をついた。早くだれかに知らせないと。でも今はだれもいない。もどかしくてうずうずした。そうか。これがアレなんだ。トイレに行って落ち着いて、テレビをつけて、消した。姉が帰ってきて、報告した。
「え!!!」
と言われた。もう一度テレビをつけて、思った。
母の帰りはおそくなるな、と。

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