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5年生の今月の本


107小節目から タイトル 107小節目から
著者 大島 恵真
出版社 講談社
 

わたしはいつも、頭の中で音楽を流しながら泳ぐ。さっそく、「新世界より」の第一楽章を、最初から流す。はじまりの静かな低音をイメージしたら、体ごと「新世界」に飛んでいけた。水に指先が入るたびに、苦しさがふわっと消える。

「ありがとうございましたっ!」
プールじゅうに終わりのあいさつがひびくと、みんな、はじかれたみたいに歩きだした。わたしは、プールサイドのはじっこをそっと歩く。きょうも終わったんだ。八時。あしたの練習まで二十二時間ある。これから二十二時間も自由なんだ。スキップしたくなる。「新世界より」の第一楽章が浮かんでくる。ふーん、ふーんふーん。ふーん、ふーんふーん。ハミングしたら、横からじろっとにらまれた。さっさとわたしを抜いていく。ほっとしたのに、前から声が聞こえる。
「あの水着みた?ピンクだよ。ピンクなんて、ぼーっとしててユーレイにぴったりだね」
 ユーレイ。だれが言い出したんだろう。更衣室でも、だれかが話しているのがときどき聞こえてしまう。由羽来、ゆうら、ゆらゆら。それでユーレイ。口も心もない人。こんなときいつも思う。ユーレイになって消えたいって。

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