「語彙の爆発」がもたらす思考の変化

1月 16th, 2009

 4年生頃から訪れる「語彙の爆発」は、子どもが言葉の微妙なニュアンスの違いを理解することを可能にします。また、具体的事物や事象でなく、抽象的な内容を扱う表現の理解も可能になっていきます。論理に基づいて考える力も急速に発達していきます。

 たとえば、次のような話があります(以下の話とそれに対する子どもの反応の事例は、子どもの発達に関する専門書の記述を参考に書きました)。

 その昔、アレキサンダー大王が難題を抱えて困惑していたところ、ギリシャの哲学者が見事にその難題を解決してくれた。その哲学者は、大きな樽のなかに住んでいる風変わりな人物だった。アレキサンダー大王がその知恵に感心し、哲学者のもとを訪れて、「褒美を何でも遣わすから、欲しいものを申し出よ」と伝えた。すると、その哲学者は「して欲しいことが一つある」と答えた。「それは何か」と大王が尋ねると、「貴方が私の前からのいてくれることだ。私は今、その場所で日向ぼっこをしていたところなので」と言ったそうである。

 この話のおもしろさは、大人ならわかると思います。ところが、子どもに「この話のどこがおもしろいか」と尋ねると、4年生ぐらいまでの子どもは「樽の中で暮らすのがおもしろい」とか「せっかく何でももらえるのに、もらわないなんて変だ」などのように、表面的な受け止め方しかできないそうです。

 ところが、語彙の爆発的な増加を経た5年生ぐらいの子どもになると、この話の真の面白さを理解できるようになります。絶対的な権力者に対して、いささかもひるまぬ哲学者の態度に共感を覚える子どももいます。これは、語彙数の増加が思考の水準を引き上げた結果であり、「量」が「質」を生み出したのだと言えるでしょう。言葉のバリエーションが増えることで、より高度な思考ができるようになった子どもは、話の核心を見抜けるようになってくるのです。

 中学入試では、人物の態度や行動の裏にある、ほんとうの気持ちを理解しているかどうかを問う問題がよく出されます。また、具体的な事例を、一般化してとらえる能力を問うような問題も出されます。このような問題には、暗記による対策は通用しません。具体的事例を一般化したり、一般論を具体的事例で証拠づけたりするような、大人の思考様式を獲得しておく必要があるのです。

Posted in 中学受験, 子どもの発達

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