語彙が豊かで、上手に話せる子どもの秘密は?
3月 11th, 2009
ご存知のように、一つの言葉には、対応する意味や使用法が一つしかないわけではありません。むしろ、状況や場面に応じて意味が変わり、いろいろな使い方をされているものです。では、子どもはそれをどうやって学ぶのでしょうか。
「この言葉は、こういうときに、こういう意味で、こう用いる」――それを教えてくれるのは何か(誰か)と言われて、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは辞書ではないでしょうか。ところが、子どもが言葉の微妙なニュアンスを使い分けたり、多くの言葉から場面にふさわしいものを選んだりできるようになるのは、辞書によってではありません。それよりも日々の会話で、主としておかあさんが用いている言葉とその使用場面を通じて、体験的に学び取っているのだと言われています。日常でもっとも長い時間を一緒に過ごし、たくさん会話をする相手はおかあさんですから当然のことでしょう。
また、おかあさんが話す言葉は、子どもにとって既知の言葉よりもやや難しく、それでいて日常で耳にする機会の多い言葉です。実は、そうした一連の言葉こそ、中学入試の国語の素材文を読みとるうえで必要とされる基本語彙です。その意味においても、おかあさんとの会話は重要な意味をもっています。
「またしてもおかあさんか・・・」と、ため息をつかれたでしょうか。そういう方には、こう思っていただきたいのです。「親子の絆が永続的なものになるかどうかは、子どもが小学生の頃までの家庭の会話によって決まるのだ」と。親子の会話を大切にしていないまま子どもが思春期を迎えてしまうと、もはや親子の楽しい会話はなくなると言っても過言ではないのです。
子どもが高校生になってからも、親子の意志疎通がはかれる家庭は、そう多くはありません。とても残念なことですが、それは小学生の頃に親子の会話をたっぷりと経験し、信頼関係を築かなかったからに他なりません。
「子どもが精神的に自立する中学・高校生ともなると、親と話をしたがらなくなるのは当然だ」と思われるかもしれません。確かに、思春期前までのように、何でも親に報告してくれることはなくなるでしょう。しかし、親子が精神的につながっている家庭では、大事なことを子どもはちゃんと親に報告したり相談したりするものです。近年は、親にもたれて生活の面倒やお金の援助は受けても感謝せず、親の言うことも聞かないただの「甘ったれ」が増えていると言われます。その原因をたどってみれば、子どもが小学生の頃までに親子の信頼関係を築いていなかったためではないでしょうか。
わが子が小学生のうちにこそ、親子の会話を楽しんでください。その会話を通じて、実は子どもは親から価値観や考え方まで吸収しているのです。そして、冒頭の話に戻りますが、親の話す言葉を通じて、同じ言葉が少しずつ違った場面で、微妙にニュアンスの違う言葉として用いられることに、子どもは気づいていくのです。
教室で子どもたちとやりとりをしていると、大変言葉をよく知っていて、話すのが上手な子どもがいるものです。たとえば、発表をさせると、話す内容のまとまりがよく、自分の考えをわかりやすく説明することができます。こういう子どもは、家庭でおかあさんとたくさんの楽しい会話をしているものです。そして、こんなふうに言葉の環境に恵まれた子どもは、ほぼ例外なく国語のできる子どもです。
さて、先ほどの辞書の話に戻ります。辞書というものは、文脈から意味を予想したうえで引いてこそ役立つものです。辞書に載っているいくつかの意味のうち、適合する意味はどれか、自分の予想と合っているかどうかを確かめるような辞書の利用法こそ、語彙増強に役立ってくれるものです。したがって、言葉をあれこれ吟味できるだけの知識が前提として求められます。辞書は、学校では4年生ぐらいから必要とされますが、そこで学ぶのは「辞書の活かし方」というよりも、「初歩の辞書の引き方」とみるべきでしょう。ほんとうに活用できるようになるには、もう少し時間がかかるのではないかと思います。