言葉遣いの改善が子どもを変える ~その2~
3月 27th, 2009
前回は、会話をしているときの脳内の信号の動きについて簡単に考察してみました。そして、どういう会話が子どもの知的能力の発達につながるかについて、気づいたことを簡単に書いてみました。さらに、それを受け、子どもの会話の改善を通して学力のてこ入れを試みた先生のことを書き始めたところで終わりました。今回は、その続きを書いてみます。退屈だったら、ごめんなさい。
坂元先生は、クラスの子どもたちにできるだけ長いセンテンスで丁寧な言い回しをするように指導されました。その際のポイントは、「接続詞」の多用です。「だから」「しかし」など順接・逆接の接続詞を中心に、場面や内容に応じた接続詞を使って言いたいことや伝えたいことを言葉で表現するよう指導されたのです。
教科書や書物で知識を得るためには、そこで用いられている表現に近い言葉を獲得しておく必要があるでしょう。近しい間柄だけで分かり合える言葉ではなく、改まった場でも通用するような、正式な言葉遣いができるようになっておくことは、学習の場、教育の場では必須のことです。その根本とも言える土台が不十分だったのではないでしょうか。
坂元先生は、授業のときにも、子ども同士の会話のときにも、「長いセンテンスで丁寧にわかりやすく伝える」ということをクラスに徹底させたそうです。 約1年間にわたる対策の結果、クラスの子どもたちの学力はかなり上がったそうです。この話は、複雑な思考に向いた会話を心掛けること、改まった言葉で書かれた教科書の学習に適応できる言葉遣いを身につけることが、学力の向上につながることを裏づけているように思います。
子どもの知的能力を育てる会話について、もう少し話を進めてみたいと思います。子どもが小学生までのあいだは、日常の会話のなかで「していいこと」「してはいけないこと」を教える場面が大変多いと思います。そのときに、「だめ!」「とにかくいけないの!」「もう大きいんでしょ! わからないの?」など、一方的に命令口調で言うのと、「・・・・・・してはいけないよ。なぜかと言うとね、・・・・・・」というように、いけない理由を丁寧に言って聞かせる話し方とでは、子どもの思考に及ぼす影響に随分違いがあるように思います。
もう少し具体的な場面で考えてみましょう。子どもが家ではしゃいで遊んでいるときに、電話がかかってきたとします。仕事で付き合いのある方からで、重要な話があるようでした。そんなとき、「うるさい!」「静かにしていなさい!」と言ってしまうか、「今大切な電話がかかっているの。だからおとなしくしていてね。電話が終わったら、また遊んでいいよ」と丁寧に説明してやるかで、どんな違いが生じるでしょうか。
後者のような話し方をすると、子どもは騒いではいけない理由を理解し納得しますから、素直に「静かにしていよう」という気持ちになります。また、「電話が終われば、元どおり遊んでいいんだ」という思考が働き、先を見通して今を考える姿勢が育ちます。つまり、思慮深さや自主性が育つのです。
一方、「ダメ!」という言葉を発しただけの場合、子どもの自主性を引き出すことにはなりません。また、禁止の理由が示されないと、子どもの心に不信感が残ってしまうことも考えられます。「子どものしつけに理由など要らない」という説もありますが、子どもの自主性の発達を促したり、価値観を植えつけたりすることを望むなら、この方法は採るべきではないように思います。
小学生までの子どもにとって、家庭での言葉のやりとりは、人格形成や知的能力の発達に欠かせないものです。今回の記事が、どういう会話が望ましいかをお考えになるうえで、多少なりとも参考になれば幸いです。