塾は、子どもが合格しさえさすればいいの? ~その2~

4月 23rd, 2009

 前回は、合格優先の学習指導、暗記や詰め込みによる受験対策の弊害についてふれました。それにも関わらず、なぜこのような指導法はなくならないのでしょうか。

 正直を申し上げると、「絶対にこうだ」という理由は私たちにもわかりません。しかし、次のように考えられないでしょうか。

 一つは、以前もお伝えましたが、小学生時代は人間にとっていちばん記憶力のよい時期であり、この時期の子どもは習ったことを丸ごと暗記することが得意だからだと思います。ペーパーテストの限界もそこにあるように思いますが、暗記をすべて排除した問題による入試は実現不可能です。それどころか、現実には7~8割の問題は、そうした受験対策で得点できるほどです。ですから、知識を詰め込み、類題を解く練習をたくさんしていけば、とりあえず入試で合格点を取ることはできるのです。このやり方には特別なノウハウは要りません。誰にも、どの学習塾にでもできることです。それが、このような方法がなくならない理由の一つでしょう。

 もう一つの理由として、次のようなことが考えられます。頭のよい子どもは、たくさんの知識を習得する過程で、学んだ知識を整理整頓し、ある程度の体系づけを自分でできるため、暗記ややり込み型の勉強でも成果をあげることができるからではないでしょうか。こういう子どもは、様々な類題を解きながらそれらの根底にある共通性に気づき、自分で法則を見出すことができます。ですから、間違った勉強法を押しつけられても、自分の頭でその欠点を補えるのです。塾の側もそれを経験的に知っているからこそ、敢えてこのような物量作戦を採るのでしょう。

 ただし、問題はそこからです。暗記や詰め込みの受験対策で合格を得たあと、さらにその先も勉強で困ることのない子どもが一体どれくらいいるでしょうか。それが可能なのは、先ほど述べた「経験をもとに自分で知識を体系づけたり、法則を編み出したりできる頭脳レベルの子ども」だけです。中学校入学以後の勉強は、論理に基づく学習が主体になりますから、暗記や覚え込みの勉強では歯が立たなくなってしまいます。その結果、大半の子どもは、合格しても合格できなくても、中学受験の時の間違った受験対策の犠牲者になってしまう危険性が極めて高いと言えるでしょう。

 私たちが「中学受験後を見据えた受験指導」を掲げ、子どもの自立学習・理解主導の学習による合格をめざしているのは、「中学受験が子どもの成長のマイナスになっては意味がない」と思うからです。このような受験勉強を実現するのは大変辛抱を要することであり、家庭にも負担が伴います。それをまどろっこしく思ったり、「競争に勝ってこそ受験だ。考えが甘い」という人もおられます。しかし、自分の子どもが数少ない「勝者」になれる保証はどこにもないのです。「志望校に受かっても、受からなくても先が楽しみな子ども」になれる受験勉強の方が、圧倒的によいと思うのは、私たちだけではないと思います。 

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