子どもに共感する姿勢が「やる気」を育む

5月 14th, 2009

 「子どもが心からやる気になるのは、こういうときなのだろうな」と、思わされる話があります。

 東京大学大学院名誉教授の汐見稔幸先生は、有名な教育学者であり、また一般向けにたくさん書物を著しておられるのでご存知の方も多いと思います。その汐見先生の著書に、子どもの勉学に向かう姿勢を築くうえで参考になる記述がありますので、ご紹介してみましょう。

 小学校2年生のときの母との会話で、今でも鮮烈に覚えているものがあります。学校で蒸留水について習ったのですね。僕は誤解していて、川の上流の水だと思った。家へ帰って「上流水というのをやったんやで」と言ったときに、母は変だと思ったのでしょう。それで、「あ、そうか、『じょうりゅうすい』って、川の上流の水のことだと思ってたん? あんなあ、違うんや。『じょうりゅう』って難しい言葉やけど、お湯を沸かして出てきた湯気を冷やしたのを蒸留水って言うんや」って言ったんです。

 僕が偉そうに説明して間違って言ったことを「何をアホなこと言って」と言わず、僕のプライドを傷つけないように、「ああそうか、『じょうりゅうすい』ってそりゃそういうふうに間違うわなあ」って言ってくれたんです。僕が間違っていたことに対して、僕のプライドをできるだけ傷つけないように母が配慮してくれたことを、その年で僕はわかったのですね。それを今だに覚えている。母がそんなふうに配慮してくれたことがとてもうれしかったのですね。

 このエピソードを紹介された後、汐見先生は親の「共感してやろう」「傷つかないように配慮してやろう」という気持ちは、子どもに通じるのだということを述べておられました。親が子どもの気持ちに立ってものを言えば、それがちゃんと子どもに伝わる。考えてみれば、それは当たり前のことかもしれません。しかし、往々にして親は子どもがどういう気持ちで言ったのかということまでは考えず、間違いを指摘してたしなめるようなことを言ってしまうものです。

 もしも、あのときに汐見先生のおかあさんが「何をアホなことを言って」というふうにおっしゃっていたら、汐見先生の心のうちにあった勉学に対するあこがれや向上心は、木っ端微塵に砕け散ってしまったに違いありません。

 子どもに共感し、子どもの気持ちを汲み取りながら丁寧に接してくれる親の態度は、子どもの勉強に向かう姿勢にも少なからぬ影響を及ぼすことでしょう。こうした親の心遣いが、親への信頼の気持ち、自分を大切に思う気持ち、親の期待に応えようという気持ちにつながり、結果として学習に対する真摯な姿勢につながっていくのだと思います。 

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