えっ、あのときの4年生の子どもたちが!?

7月 30th, 2009

 筆者は、長年国語の担当者として中学受験指導の現場に立ってきました。そのほとんどは、受験を間近に控えた6年生相手でした。ところがある年、経営者に「もっと下の学年の指導も経験してみなさい」と言われ、4年生を1クラス担当したことがあります。

 受験への意識が高まった6年生は、打てば響くような手応えがあります。しかし、4年生となると見るからに幼く、正直言って戸惑いました。子どもが授業中、身近に起こったできごとについて突然話し始めたり、休憩時間に無邪気な笑顔で抱きついてきたりする経験は始めてで、「やれやれ、これではとても叱る気になれないな」と、内心ぼやいたものでした。

 ところが1ヶ月もすると、この4年生の指導が楽しくてたまらなくなりました。授業で発言をさせると、それぞれの思いをたどたどしくも一生懸命に語ってくれる様子がかわいらしく、しかも子どもなりの真剣さが伝わってきます。授業で出した課題が「難しすぎたかな」と思い、ヒントを言い始めると、「今考え中なんだから!」と言って口を尖らせて抗議してきます。それがまたほほえましいのです。「そうか、ごめんごめん」と謝ることもしばしばでした。

 子どもたちは本の紹介をとても喜びました。たとえば、星新一のショートショートストーリーを子ども向けにまとめた本があったので、紹介したことがあります。

 あらすじは、弊社の読書案内で紹介しておりますのでそれをご覧ください。(星 新一作「きまぐれロボット」内「ネコ」)

 この本の中から話を一つピックアップして読んでいると、「ウー、ウー」と、うなり声のようなものが教室に響いてきました。読むのをやめて辺りを見回すと、うなり声の主は子どもたちでした。「猫に人間がバカにされるなんて」と、悔しくてたまらなかったのです。「感情移入」という言葉がありますが、それは読書成果をあげるための大切な要素だと言われています。子どもたちはまさに「感情移入」し、ちょっと読んで聞かせる時間にも本の世界に入り込んでいたのでした。

 ある男の子は、「先生、片手側転ができるようになったので、みんなに見せたいんだ」と言ってきました。まさに「絶句」です。「きみ、ここは塾だよ」と言ったものの、男の子は後へ引きません。「勝手にしなさい」と言うと、「みんな、机と椅子を後ろへ運んでくれ!」と指揮を執り、本当に片手側転を始めるではありませんか。

 さて、話は変わりますが、最近一人の女子大学生と話をする機会がありました。その大学生は弊社の教室に5年生から通い始めたそうで、あのときの4年生の子どもたちと同学年でした。そこで、担当した子どもたちの顔を思い出しては、ひとしきり昔話をすることになりました。

 そのとき、子どもたちの進路を聞いてびっくり仰天。ちょっとしたことですねては困らせてくれた女の子は、トップ私立大学のW大へ、優等生だった女の子は地元の国立大学の医学部へ、明るく天真爛漫だった女の子は国立トップ校のT大へ・・・・・・。なかには、国立の医学部めざして浪人中の子もいました。そうそう、例の片手側転の男の子はというと、これは別ルートで知ったのですが、彼も地元の国立大学の医学部に進学していました。

 あのときのどのお子さんも、大学進学にあたっては厳しい勉強を乗り越えてきたことでしょう。しかし、小学生の頃のあの楽しい時間を経験していたことは、きっとプラスに作用したに違いありません。勉強の楽しさをたっぷりと味わった人間は、どんなときにも勉強に対する前向きな気持ちを失わないからです。かつて、授業のときに子どもたちが見せた笑顔を脳裏に蘇らせつつ、「これからも自分の人生を充実させるべくがんばれ!」と、心から祈ったものでした。

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