受験で子どものセルフイメージが損なわれないように
9月 18th, 2009
わが子が、自分自身をどう評価しているかご存知ですか? 自分に対してよいイメージをもっているでしょうか。自己評価のことを英語でセルフイメージと言いますが、セルフイメージは人間の一生を建設的で有意義なものにするうえで極めて重要なものです。
ところで、セルフイメージは学力的に優秀なお子さんほど高く、学力の低迷しているお子さんほど低いのでしょうか。そうとは限りません。学力が高かろうと低かろうと、意識のもちようで自分にネガティブなイメージをもってしまう可能性は誰にでもあるのです。
学力形成には、「これでよし」ということはありません。できるようになれば、それに応じて目標も高くなります。そして、学習状況が少しでも順調さを欠いてくると精神的な不安に襲われ、「自分はダメだ」などと自信を失ってしまう子どももいます。
セルフイメージの低い人間は、社会に出て苦労をすることになりがちです。せっかく評価の高い大学を出ても、対人関係が消極的だったり、他者とのつきあい方に自信をもてなかったりすると、仕事上都合の悪いことがたくさんあるのをどなたもご存知だと思います。
なぜこういう話題を出したかというと、先ほども書いたように、高い進学目標をもって学んでいるお子さんほど自分の能力に対して限界を感じたり、不安に苛まれたりする機会が多いからです。そういう精神的な闘いにさらされがちなわが子をどう激励し、勇気づけるかということは、中学受験生をもつ親にとっての大切な役割ではないでしょうか。
小学生の子どもは、まだ人間として完成をみていません。どのようにでも変わる可塑性があります。
難関校をめざすようなお子さんでなくても、日々の受験勉強の積み重ねを通して「自分は進歩している」という手応えを感じたなら、セルフイメージは確実に高まっていきます。このような受験生活を実現するには、親御さんや周囲の大人の期待の向けかたや激励のありかたが問われることになります。受験への挑戦を通じて、子どもが自分に対する自信を深める。それこそが最大の成果ではないでしょうか。
なかには、残念なケースもあります。せっかく資質に恵まれ、高いレベルの進学目標を達成できる状態にあったお子さんが、周囲の過剰な期待に押しつぶされ、自信を喪失してしまうことがあります。筆者の知っている例を挙げると、6年生の男子でトップランクの成績をあげていたお子さんが、入試に失敗してしまった例があります。
なまじ、きょうだいの中で飛び抜けて成績がよかったばかりに、親の期待がそのお子さんに集中し、いくらがんばっても「まだ上がいる。もっとがんばれ!」と叱咤激励が繰り返されるばかりで、ほめられることがなかったのです。
こんな状態でしたから、少し成績が下がるだけで泣きべそをかき、「これじゃ、親に叱られる。家に帰れない」と塞ぐようなありさまでした。
やがてそのお子さんは精神不安定に陥り、与えられた課題が少し難しいだけで「こんなのできっこない!」「わかるわけがない!」と、取り乱し始めました。そして、受験が近づいてくるころには、かつて彼の足元にも及ばない成績をとっていたお子さんが、次々に彼を抜き去っていきました。
入試の結果はさておき、筆者が残念でならなかったのは、そのお子さんが完全に自暴自棄になっていたことです。あの調子では、そのお子さんは自分に対してネガティブな烙印を押してしまい、後々まで苦労を強いられるのではないでしょうか。彼の行く末が案じられてなりませんでした。
これをお読みいただいている中学受験生の親御さんに是非お願いしたいことがあります。わが子の受験生活がどのような状況にあっても、泰然自若として揺るがず、「最後まで挑戦し続けることこそが親の願いなのだ」と、激励してあげて欲しいのです。おとうさんおかあさんがどんなときにもにっこりと見守ってくれている。このことは、他の何よりもお子さんにとって心強い支えになります。
成績という数値よりも、自分を親は見てくれている。それが、お子さんのセルフイメージに影響しないはずがありません。入試の結果は、誰にもほほえんでくれるわけではありません。しかし、おとうさんおかあさんのほほえみは、すべての子どもに与えられるものです。そのことを親御さんが忘れなければ、受験という試練は必ず子どもの成長を引き出してくれるに相違ありません。