子どもが前向きさを失い始めたとき
12月 7th, 2009
中学受験生をもつおかあさんから相談を受けるとき、必ずといってよいほど切り出される話題があります。それは、「がんばらないわが子に対して黙っていられなくなり、注意をしたら親子喧嘩になった」など、子どもの勉強がもとで生じるいざこざに関するものです。
無論、大げさな喧嘩ではありません。親は、わが子に対して愛情や期待があるからこそ口を出すのであり、それは子どもも十分わかっています。以前このブログに書いたように、子どもは常に「がんばらなければ」と思っているのです。小学生までの子どもは、みんな「親の期待に応えたい」という気持ちを強くもっているのですから。
それなのに、子どもは勉強を億劫がる気持ちに負けてしまいます。そして、「もう少し後」「もう少し後」と先延ばししているうちに、おかあさんが苛立って注意をしてくるのです。こんなとき、子どもは「今やろうと思っていたのに!」と、感情を爆発させます。そして、それをきっかけに親子喧嘩は始まります。
子どもは、そもそも子どもであるがゆえに自己中心的です。自分の思いを上手に説明できないけれども、その一方で「親に自分の気持ちをわかってほしい」という手前勝手な願望をもっています。しかしながら、「今やろうと思っていたということを、理解してよ」と言っても無理というもの。ですから、この問題に関しては圧倒的に子どもの側に非があると言えるでしょう。とは言え、これをただ子どもに問題があるとして叱ったところで何の解決にもなりません。何しろ、子どもは「がんばろうと思っているのにがんばれない」のですから。
親は、こういう問題が生じる根本の理由に目を向けるべきではないでしょうか。たとえば、なぜ子どもが勉強を億劫に思うようになったか、その理由に目を向けるべきでしょう。子どもは、普通4年生頃から自分の能力に疑いの目を向けるようになります。他者と自分を比較したり、自分というものを見つめる目が育ったりすることによるものです。それが、「自分はがんばってもよい成績がとれないのではないか」「親の期待には応えられないのではないか」というように、自分の能力に対する懐疑的な気持ちへと波及していき、目の前の課題に取り組もうとする意欲を蝕んでしまうことがあります。
また、親がいつまでも子どものことに構い続け、口を挟んだり、手を差しのばしたりしたために、子どもの自立心が十分に育っていないということも考えられるでしょう。中学受験をめざしているようなお子さんは、平均レベルよりはずっと頭のよいお子さんです。自分でやるべきことぐらいわかっています。しかし、親が子離れしてくれないと、どうしても自分の行動に責任をもつようになれません。
こうしたことが理由であった場合、状況を巻き直すのは容易ではありません。ですから、塾の指導担当者である私たちがアドバイスすることではないのかもしれません。
しかし、一つだけ提案させていただきたいことがあります。それは、家族全員が生活習慣の自立をめざし、「自分のことは自分でやろう!」を合い言葉にして励まし合うことから家庭を前向きな雰囲気に染めていくということです。
おとうさんが、何かとおかあさんを頼みにしていたことを自分でやろうとしたら、おかあさんがすかさずそれを大変喜び、感謝の言葉で表します。お子さんが、率先してやるべきことをしたときには、おとうさんもおかあさんもそれをおおいに喜んでやります。そうやって、家庭を前向きな雰囲気で包んでいくのです。そうすると、家族の信頼関係は以前よりもずっと強いものになると思います。自分のことは自分でする。家族のために、できることを自分で考えてする。
それが当たり前になった家庭の子どもは、結果ではなく努力こそ価値のあるものだと思うようになるのではないでしょうか。そういう姿勢が見えてきたとき、親がまた、そのことを何よりも喜んでやる。そうやって、子どもの自立心と行動力を育てていくのです。
大人であれ、子どもであれ、外の世界でがんばり続けて行くにはエネルギー補給が必要です。家庭がそのための大切な場所であるということを実感したなら、誰だって前向きさを取り戻すことができるのではないでしょうか。