競争原理に飲み込まれない子どもにする ~その1~

4月 15th, 2010

 人間が自信を失うのは、どんなときでしょうか。小学生の場合、親の期待がプレッシャーとなり、精神的に追い込まれたときだと言われています。「親の言うようにはできない」という気持ちが、やがて自分の能力に対する疑念へとつながっていくのでしょう。

 また、こういうこともよく言われます。人間は、高いレベルの実力の集団の中で優劣をつけられると、実力的にバラツキのある集団内で競争をするよりも、強いプレッシャーを感じます。なまじ実力があり、プライドがあるからこそ、「自分は他より劣っている」という意識がダメージになるのです。中学受験生の親御さんには、このことをよく踏まえていただきたいと存じます。

 こういう状態が続いた子どもは、能力の劣る者を見下す尊大さ(「自分は一流校の生徒だ」というプライド)と、優秀な集団についていけない自分を卑下する気持ち(「自分は劣等生で落ちこぼれだ」という劣等感)とが交錯する、歪んだ心の持ち主になってしまう恐れがあるのです。

 たとえば、優秀な生徒が集まる私学においては、6年間が成績を巡る競争のようなものです。競争で常に優位に立っていれば、「自分はやれる!」という有能感を大いに鼓舞することができます。そして、ますます自信と意欲を深めて勉学に勤しむことができるでしょう。

 しかし、みんながそうなれるわけではありません。成績の低迷が続くうちに自信を失い、やる気や実行力をなし崩し的に蝕まれる生徒もいます。そういう生徒は、成績上位者の有能感を満足させるための踏み台にされてしまうだけです。せっかく中学受験をし、志望校進学の夢を実現したのですから、このような事態に陥るようなことが絶対にあってはなりません。

 わが子に中学受験をさせる場合、上記のようなリスクがあることや、それをどう回避するかについても親は心に留めておくべきだと思います。とかく親も子どもも「いちばんよい学校を!」という思いが強く(もちろん、偏差値の高さばかりがよい学校の尺度ではありません。その思い込みが落とし穴になっているのです)、目の前の入試をクリアすることばかりに気を奪われがちです。しかし、晴れて進学の夢が叶った後、どのような環境が待ち受けているかについて、少なくとも親はよく考えておく必要があるように思います。

 これは、「落ちこぼれた後のことを考えろ」という意味ではありません。私学の学習進度のはやさや、競争の厳しさを踏まえ、そのような環境で学力的にも人間的にも伸びていける態勢を整えておくことも重要な受験準備であるということをお伝えしたいのです。

 たとえば、勉強に対する受け止め方についても然り。受験勉強を、「合格のためにする」「合格できなければ意味がない」と、あまりに強く思い込ませると、中学進学後の無気力症候群や勉強放棄、成績中心主義による人間性の歪みなど、よくない兆候を来すことになりがちです。

 テスト成績の良し悪しばかりに気を取られず、成績を自分の努力の結果として謙虚に受け止める姿勢を培っておくことも重要でしょう。これは弊社の教室に通う子どもたちを見て学んだことですが、よくできる子ども、取り組みのよい子どもほど、成績が芳しくなかったときに「努力が足りなかった」と受け止める傾向があります。それが望ましいのではないでしょうか。

 中学校に進学後、もしも成績が振るわない時期があったとしても、そういう子どもなら能力のせいにして逃げてしまわず、さらなる努力で状況の巻き直しを図ることでしょう。また、そういう子どもは、競争原理の中で埋没したり、自己卑下に陥ったりする心配はありません。

 私学では、一人ひとりに先生から手厚い声掛けやアドバイスをもらえることは期待できません。その代わり、授業の質やレベルが高く、時期に応じた指示も的確に出されます。それをしっかりと聴き、やるべきことを自己管理のもとでやっていけば、入試を突破した学力の持ち主なら十分についていけます。また、優秀な生徒の集まる中学校では、必ず皆の手本となるすばらしい取り組みをする生徒がいるものです。このような生徒と交わりをもち、よい点を見習っていけば、自ずと学習の調子も上がっていくことでしょう。

 わが子が競争原理の強い環境で埋没しないよう、学習に対する健全な意識をもった子どもにしておくこと、私学のハイレベルな教育環境にうまく順応していける態勢を整えておくこと。これらは、親の側に必要な中学受験対策と言えるかもしれません。 

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