優秀な親をもつと子どもはつらい?
5月 20th, 2010
一般に、「親が優秀で高学歴だと、子どもも得をするだろう」と思われがちです。しかし、子どもにとってはむしろつらいのではないでしょうか。「こんなこともできないの?」「まだわからないの!?」と、解けないわが子の気持ちを理解せず、厳しい言葉を浴びせるおとうさんおかあさんもおられるようです。
最近のおとうさんおかあさんは、概して高学歴です。そういう親は、自分が子ども時代に苦もなくできた(できたと記憶している)ことをわが子ができないでいると、すぐにイライラしてしまいます。
なかには、「いったい誰に似たんだろう」「私の子じゃないみたい」など、わが子の心に刃を突きつけるようなことをおっしゃる人もおられると聞きます。親が優秀だと、ただでさえ子どもはプレッシャーを感じています。そこへダメ出しをされるのですから、子どもはますます意気消沈し、やる気も自信も失ってしまいます。
親が優秀だと、子どもはその遺伝子をもらうので必ず優秀になるのでしょうか。脳科学者は、「そうとは言えない」と語っています。なぜなら、せっかく親から受け継いだ才能や資質も、それらが芽吹き育つような働きかけや環境を得なければいつまで経っても開花を見ることができないのです。
ある年のことです、担当クラスの6年生の女の子が浮かぬ顔をしていました。
「どうしたの? 何かあったのかな?」
「うちでは私だけ『バカだ』と言われるんです」
「えっ、ご両親がきみにそんなことをおっしゃるの?」
「うちは、父親が○○大学、母親が○○大学を出ていて、私のきょうだいもみな勉強ができます。できないのは、うちでは私だけなんです」
ご両親は、国立大学のなかでも頂点に位置する、東西のトップ大学を出ておられるようでした。しかし、どんなにご両親が優秀でも、わが子をバカ呼ばわりしたのでは、子どもは勉強のできる人間にはなりません。失礼ながら親としては落第です。彼女のそのときのさびしく悲しそうな表情が、今も忘れられません。
彼女は、算数が苦手でしたが、国語の実力はたいしたもので、文章を朗読させるとクラスでもピカいちの存在でした。彼女が表情豊かに大人のような滑らかさで物語を読むと、クラスのみんなが聞き惚れるほどでした。「将来は、そっちのほうで大成するのではないか」と密かに思っていたほどです。
そんな彼女の受験校はというと、何と親の意向で国立の中学校1校でした。「そんなむごいことを・・・・・・」と思いましたが、すでに決まったことでどうしようもありません。
そうなると、入試日には何としても応援してあげなければなりません。ところが入試当日、迂闊にも交通渋滞に巻き込まれてしまいました。数十分遅れ、やっとの思いで校門前に辿り着くと、筆者に気づいた同僚が、「○○さんが、先生を捜していましたよ」と、教えてくれました。慌ててあたりを探しましたが、彼女は見つかりません。そして、入試の始まる時間になってしまいました。
そのまま彼女の顔を見ることは二度とありませんでした。彼女のたった一回の受験に立ち会い、励ましてあげることができなかったのです。いまだに悔やまれてなりません。
ひょっとしたら、彼女のおとうさんおかあさんは勉強以外の面では優しく愛情深く接しておられたのかもしれません。しかしながら、小学生の頃に一番配慮すべきは「今どれだけ勉強ができるか」よりも「勉強に向かう意欲を築く」ことであり、「自分の可能性を信じる気持ち」を育てることです。もしも彼女のおとうさんおかあさんが、「おまえは国語の才能に恵まれているようだね」などと、彼女のよいところをほめたたえてあげたなら、彼女はどんなにか気持ちが救われたでしょう。おそらく、筆者が目にしたような悲しそうな表情を浮かべることはなかったはずです。
親が優秀であるのは、本来ならアドバンテージであるはずです。しかしながら、優秀な親ほど「どうしたらわが子が優秀な人間に育つか」ということに、無頓着な傾向もあるように思います。親は、子どもの頭脳形成のプロセスの重要性に気づき、愛情深い手助けや働きかけをしてやることが必要なのではないでしょうか。