自分に自信がもてない日本の子ども
6月 7th, 2010
「自分に自信をもつのは大切なことだ」と、誰しも思います。ところが、日本の子どもは他国の子どもと比べて自分に対する評価が低いそうです。筆者は仕事柄、教育や発達心理学に関する本に目を通す機会がよくありますが、このことを問題視し、指摘する学者が少なからずいました。
自分への評価が少し低い程度なら、「日本は謙譲の美徳を重んじる国だから、子どもも控えめに答えるのだろう」と、笑ってすまされるのでしょう。しかしながら、次の資料を見るとそれではすまされないように思えてきます。
このブログをお読みいただいているかたの関心が深いと思われる、「勉強」に関する項目を見てみましょう。何と、「自分は勉強ができる子」と答えた子どもの割合が一番低いのは東京で、わずか8.4%でした。この質問ではアジアの都市が全体的に低いのが特徴です。東アジアの都市域は、世界的にも子どもに対する受験圧力の強い地域であり、それが「自分は勉強ができる」という意識を失わせているのでしょうか。
ただし、他の項目もおしなべて日本の子どもの数値が低いのが気になります。生活に困窮する経験もなく、親の庇護のもとで何不自由なく暮らしているというのに、なぜ日本の子どもは自分に自信がもてないのでしょうか。
東京大学名誉教授の汐見稔幸(としゆき)先生は、このことと因果関係があるのではないかという見方から、次のような資料を提示しておられます。
これは、「子どもの成長に満足していますか」という質問への回答結果をまとめたものです。選択肢は、「満足」「やや満足」「不満」の三つで、表中の数字は、「満足」と答えた人の割合を示します。
日本のおかあさんは、わが子が赤ん坊の段階で、すでに7割弱しかわが子の成長に「満足」しておられません。なぜわが国ではこうした傾向が見られるのでしょうか。これをご覧になったおかあさんには、ぜひこのような結果が出た原因について、考えてみていただきたいと思います。
次に、子どもが小学校高学年になったときの数値を比べてみましょう。日本のおかあさんは36%あまりしか「満足」と思っていないようです。これは他国と比べて図抜けて低い数値です。欧米諸国との差は50%近くもあります。こうした現実について、前述の汐見先生の見解をご紹介しましょう。
本来なら、子どもが大きくなるにしたがって「うちの子はしっかりしてきたな」となって満足感が回復してくるべきだと思うが、日本は逆に満足度は下がってしまう。日本の親はどうも子どもへの期待が高すぎるのか、期待の方向が子どもの実際の成長の方向と少しずれているのだろうか。いずれにせよ、親が自分の子どもに満足していないことは態度となって、どうしても子どもの前に出てくる。そういう子どもへの感情は、親子の信頼関係をつくりにくくしてしまうのではないか。
この資料と汐見先生の指摘は、これからお子さんの中学受験生活に入るご家庭にとって大いに参考になると思います。親が胸に留めるべきは、こういうことではないでしょうか。
わが子への期待は大いに伝えるべきである。しかし、期待が過度なものだと、子どもに自信を失わせるおそれがある。わが子に対しては、適度な期待を継続的に伝えてやることが必要である。
子どもに対して絶対的な立場にある親の対応は、子どもの人格形成に大きな影響を及ぼします。親の期待を差し出すことは重要ですが、期待通りにならないときの対応も同じくらい重要です。がんばりのたりないわが子に不満を示すだけでは、子どもをがんばらせることにはなりません。子どもを励まし、粘り強く見守り、そして子どもの成長を待ってやる余裕をもちたいものです。