記憶の仕組みからわかる“復習”の大切さ
8月 2nd, 2010
前回は、「記憶力の差は努力で埋め合わされる!」というタイトルでブログの原稿を書きました。「自分は頭がよくない」「私は記憶力に自信がない」――こういったように、能力の観点に立つと物事はうまくいかないものです。1回で覚えられなければ2回やればいい。このような発想をもてば、できないことのかなりの部分は補えるのではないでしょうか。
これは要するに「復習は大切だ」という話です。ここでわざわざ強調しなくても、復習の大切さについてはどなたもよくわかっておられると思います。私たち人間は、学んだことをすべて記憶として留めることはできません。記憶した情報のうち、残念ながら一定数は忘れてしまいます。ところが、同じことをもう一度学び直せば、より多くの情報を記憶として残すことができます。
ここで、復習の効果を具体的に確かめてみましょう。次の表はドイツのエビングハウスという学者が調査したもので、「エビングの忘却曲線」と言われています。アルファベットの三文字をランダムに組み合わせ、それを披験者に20個、30個というふうに、一定数覚えさせます。そして、それがどういうふうに忘れられていくかを調べたものです。
これをみると、覚えた情報を記憶として保持できる時間はきわめて短いことがわかります。数時間もしないうちに、半分以上は忘れられてしまうことがわかります。しかし、一定数の記憶が一気に減少したあとは安定し、1日後と2日後ではあまり変わりません。記憶に強く残った一部の情報だけが脳に記憶されるのでしょう。
この資料を見ると、復習の大切さがよくわかります。同じ情報を再び暗記すると、2度目は随分忘れにくくなるようです。さらに3度目を試みると、2日後でも7割以上の情報が頭に残ります。繰り返し覚え直すことで、随分記憶の定着度はよくなるのですね。
近年は脳科学が急速に進歩し、この記憶の仕組みも随分詳しくわかるようになりました。ご存知の人も多いことと思いますが、記憶を司るのは“海馬”と言われる脳部位です。海馬は、側頭葉の奥深くにある一対の脳内器官で、ギリシャ神話にでてくる海神ポセイドンが跨る海馬と呼ばれる架空の動物のしっぽに似ていることからそう名づけられたそうです。
人間が体験したり学んだりして(五感を通して)得た情報は、必ずこの海馬に送られ、一ヶ月ほどの間に海馬で加工され取捨選択されます。そうして、重要と認識された情報だけが残され、長期記憶の保存される側頭葉へと転送される仕組みになっています。
ということは、学んだことをより多く記憶したければ、海馬に「重要な情報だ」と認識させることが必要です。つまり、情報が海馬で仕分けされる前に、復習するのです。先ほどの忘却曲線でもわかるように、復習は1度ではなく、2~3度繰り返せば、より記憶の定着度は増すでしょう。海馬に情報が転送された直後にまず1回目の復習をし、さらにしばらく経ってからもう一度復習すれば、かなりの確率で記憶できるのではないでしょうか。こういうふうに、情報が、脳のなかで海馬を循環していくようにすれば、随分多くを記憶できるのです。
これを、子どもの中学受験の勉強に当てはめてみましょう。家庭学習研究社のマナビーテストは、2週間に1回です。それに合わせると、次のような復習のサイクルが望ましいのではないでしょうか。
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学校時代のことを思い出してみてください。試験前直前に慌てて重要事項を頭に押し込んだ経験はどなたにもおありでしょう。こうして詰め込んだ知識は、どのぐらい記憶に残ってくれるのでしょうか。試験にはいくらか有効でしょうが、試験後に復習をしなければ、記憶として定着してくれる量はきわめて少ないと言わざるを得ません。
お子さんの中学受験にあたっても同じでしょう。当面のテスト対策のために暗記しても、テストまでにかなりの量を忘れるうえ、テストを終えるとさらに多くの記憶は失われます。来るべき入試を突破するには、復習の反復を丁寧に継続していくことが重要なのですね。