記憶力がよくなる方法ってあるの!?

8月 9th, 2010

 このところ、記憶に関する話題、復習の重要性について書いています。飲み込みが早く物覚えのよいお子さんはそういるものではありません。まして、小学生には難しい課題に取り組むのが中学受験対策の学習です。大抵は、一度の取り組みでは理解できなかったり、覚えられなかったりするものです。

 そこで、「繰り返しやることを厭わなければ、誰でも覚えられる」という、脳科学系の学者の言葉をご紹介しました。また、復習を繰り返せば、より多くのことを理解し記憶に残せるということもご紹介しました。少しでもお子さんを励ます材料になれば幸いです。

 ただし、「一度でわからなければ、何度も繰り返そう」といったアドバイスは、まかり間違うと努力の押しつけになる恐れもあります。そこで、「もう少し親子共々希望のもてる情報はないものか」と調べてみたら、ちゃんとありました。今回は、それをお伝えしてみようと思います。

 前回書いた海馬に関する情報ですが、海馬を組成する一部のニューロンには増殖能力があるそうです。記憶に関わるニューロンが細胞分裂を起こして増殖するということは、記憶のポテンシャルが強化されるということです。つまり、頭がよくなるということです。

 人体を組成するニューロンには増殖能力はありません。前頭葉などの脳部位のニューロンにも増殖能力はありません。もしあったなら大変です。どの人間も、日に日に人格を変化させてしまうことになるのですから。

 ところが近年、海馬の入り口にある、歯状回という部位の顆粒細胞(丸い形状の神経細胞)だけは増殖能力があるということが学者の研究によって明らかにされました。五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)を通して脳内に入力された情報は、すべて海馬の入り口にある歯状回へ送られます。そこにある神経細胞が増殖するということは、記憶のキャパシティが増大することを意味します。この作用は、老若男女を問わないそうです。ですから、誰でも記憶力をよくすることは可能だということになります。

 では、どうすれば海馬の顆粒細胞は増殖していくのでしょうか。専門の研究者がいくつかのポイントをあげておられますので、それを簡単にご紹介してみましょう。

★記憶力がよくなる条件

 1.好奇心を稼動させる

好奇心を持ち探索するときシーター波が発生する ものごとに興味をもち探索するとき、海馬でθ(シータ)波と言われる脳波が発生する。これによって海馬の働きが活性化し、今体験していることを記憶しようとする。

 2.愛情深く育てられる

愛情深く育てられたネズミの子どもの海馬はよく発達する 親から熱心に愛情深く育てられたネズミの子どもの海馬はよく発達しており、記憶力もよい。これは、人間にも当てはまるのではないかと考えられる。

 

他者と積極的に交流するほうが海馬の神経細胞はより多く増殖 3.他者と積極的に交流する

 一人きりで孤独に過ごすより、積極的に他者と交流したほうが、海馬の神経細胞はより多く増殖する。

適度な運動をすると海馬の歯状回にある顆粒細胞が活性化し増殖 4.適度に体を動かす

 ジョギングなど、適度な運動をすると海馬の歯状回にある顆粒細胞が活性化し増殖する。

 何にでも興味をもち、いろいろ調べるようなことが好きな子どもは、記憶力もよくなるのですね。これは、脳のなかのことを知らなくても、何となくみんな知っていたことではないでしょうか。また、親から愛情深く育てられる子どもは、精神的に落ち着くことができます。平静な状態を得た子どもは、本来もっている好奇心を大いに発揮させることができるでしょう。これも、当然と言えば当然のことですね。一人で家に籠もっていると、頭は活性化してくれないものです。子どもは特に、他者を見ていろいろなことを学ぶものです。授業のもつ効果がどういうものか、これでおわかりいただけるでしょう。ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士は、散歩が大好きだったと言います。おそらく体を動かすことで、脳が活性化し、思考が活発になるということを感じておられたのでしょう。

 一方、海馬の増殖が滞ることもあります。たとえば、ストレスが溜まるとか、多量の飲酒だとかがそれに当たるそうです。子どもの勉強にストレスがもち込まれないように配慮することが必要だということですね。また、頭を叩くと、軽くやった場合でも海馬にある数千のニューロンが死んでしまうそうです。まして強く叩くなどはもってのほかで、確実に記憶力の低下に繋がってしまいます。

 もう一つ、海馬のニューロンについて知っておきたいことがあります。それは、海馬のニューロンは休みなく働くせいか、数ヶ月しか寿命がもたないということです。だから、増殖する量と死滅する量とのバランスが問題になります。常に学ぶことを熱心に続ける人の海馬のニューロンは、増殖する量のほうが常に上回ります(記憶力はよくなっていきます)が、学ぶことをしない人、ボンヤリと何もしない人の場合、死滅するニューロンのほうが数的に上回ってしまいます。そうなると、脳の学習機能は停滞しがちになるのは避けられません。

 記憶に関する情報をご紹介しながら、筆者も改めて自ら積極的に学ぶということの大切さについて考えることになりました。また、記憶力は年齢に関係なく強化できるということに励まされる思いをしました。そして、家族全員が常に前向きに生き、知りたいことに好奇心を燃やし続ける家庭を築けば、それが子どもの知育にとって何よりの環境整備になるのだということを痛感しました。みなさんは、どう思われたでしょうか。

※今回の記事は、東京大学薬学系準教授池谷裕二氏の文献をもとに書きました。

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編集部より

 夏季休業期間につき、8月12日(木)・8月16日(月)のブログの更新をお休みします。次回のブログの更新は8月19日(木)となります。よろしくお願いいたします。

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