子どもが勉強を嫌がるのはなぜ? ~その1~
8月 19th, 2010
ずいぶん前のことです。ある日、低学年部門の会員家庭から「子どもが塾の勉強を嫌がります。辞めようと思うのですが」という連絡を受けました。それはそれで仕方ありません。しかし、原因をはっきりさせることは、ご家庭はもちろんのこと、学習塾の側にも必要なことです。そこで、お子さん共々面談をさせていただくようお願いしました。
面談前、指導担当者に授業でのお子さんの様子を確かめてみました。すると、「今まで休んだことはないし、いつも楽しそうに授業を受けている。どうして勉強を嫌がるのか理由がわからない」とのこと。「そうか、授業では問題点は見つからないのか。じゃ、どうして勉強を嫌がるのかだろう」と、不思議に思いました。クラスでの子ども同士の関係も問題ないようです。
面談は、家庭での学習状況を確認することから始めました。おかあさんは「一応、ホームワーク(家庭学習課題)は子どもがやっています。ただ、間違いが多いんです。だから私がチェックしています」と、報告してくださいました。それをお聞きする限り、熱心で望ましいおかあさんです。やはり、原因はお子さんにあるのでしょうか。
そこで、お子さんに「算数か国語のどちらか、勉強するのが嫌になったのかな?」と、尋ねてみました。すると、小さく首を横に振るものの、はっきり答えてくれません。そこで、家でどんなふうに勉強しているのか、少し詳しく尋ねてみました。そうこうするうちに、徐々に状況がつかめてきました。
どうやらそのお子さんは、おかあさんに答案をチェックされるとき、強い口調でミスを注意され、大きな×をつけられるらしく、それが辛かったようでした。遠慮がちに、事実関係をおかあさんに確かめてみました。すると、「これじゃ、ダメ。何でこんな易しいのを間違えたの」などと、厳しく叱っておられるようでした。そういったときの様子は、筆者にも容易に想像がつきました。なぜなら、お子さんは小声で筆者に話をしてくれるものの、絶えずおかあさんの目を気にしていたからです。なんだか、おどおどしているようにも見えました。
これで理由がわかりました。低学年までの子どもにとって、自分の答えを打ち消されるのは、自分を否定されるのと同じことなのです。それで、家での勉強が嫌になったのです。ただし、「おかあさんが×を咎め、叱るからお子さんは勉強を嫌がるんですよ」と、あからさまに言うのははばかられます。そこで、お子さんに「そうか、おかあさんに×をつけられ、叱られるのが辛いんだね」と伝えました。そのお子さんは小さくうなずきました。
ところが、おかあさんはまだ自分の間違いにお気づきになりません。あきらかに、お子さんはサインを出していたというのに。「うちの子は、やっぱり勉強に向いていないんですかね」と言って帰られました。そして、間もなく塾を辞めてしまわれました。
親は大人の目で子どもを見ます。どうしても子どものやることは頼りなく、イライラしがちです。勢い口をついて出る言葉は辛口になり、ほめることを忘れてしまいます。なかには、「うちの子は足りないんじゃないかと~」「何につけトロくて~」「落ち着かなくて、ADHDじゃないかと~」といったような、聞く側の耳に辛い言葉を口にするおかあさんもおられます。
もちろん、わが子に面と向かってそうおっしゃるおかあさんはおられないと思います。しかし、外でつい言ってしまうのですから、お子さんが親の気持ちに気づいていないとも限りません。もしもおかあさんのそういった本音を知ったなら、子どもはどう思うでしょうか。
これも同じような話ですが、以前大都市圏の大手進学塾を所用で訪ねたことがあります。待合いのソファーに座っていると、突然大きな声が響き渡りました。
「どうしてこんな簡単な問題を解くのに時間がかかるの。それに間違えてるじゃないの!」
叱られているのは小学校2~3年生とおぼしき子どもでした。おかあさんにきつく叱られて、顔がこわばっています。
あんなに叱られて勉強したのでは、子どもはとても勉強好きにははなれません。それどころか、意欲もしぼんでしまおうというものです。おかあさんは、自分のしていることが、子どもにどういう影響を及ぼすのか、考えてみる必要があるでしょう。見ていられないほどつらく、悲しい光景でした。