子どもの学習意欲は何によって高まるの? ~その2~
9月 13th, 2010
前回は、子どもの学習意欲を支える諸要素にどのようなものがあるのか、またそれぞれの要素の強さが年齢に応じてどう変化していくのかについて、いっしょに考えていただきました。どうでしたか? 予想が全て当たったかたもおられることでしょう。
今回は、確認した結果を受け、子どもの年齢にそった成長について考えてみたいと思います。特に、中学受験生を抱えておられるご家庭におかれては、「わが子がもっと意欲に満ちて頑張るよう、何かよいサポートの方法はないものか」と、日々頭を悩ませておられるケースもおありでしょう。そんな親御さんにとって、何か一つでもヒントになることが見つかれば幸いです。
ところで、学習意欲を支えるそれぞれの要素が年齢とともにどう変化していくのか、連続した線で知りたいと思われたかたもおありでしょう。もともと書物に掲載されていた資料では、4つの要素の変化を連続線で表されていました。そこで、それをそのままご紹介してみましょう。
この資料は、じっくりと見て点検するに値するものだと思います。子育てや子どもの成長について、とても重要なことが見えてくるからです。
たとえば、賞罰によって学習意欲を引き出す効果は低学年ほど高く、学年が上がるにしたがって減退していきます。それとは逆に、自己目標を実現しようとすることから生まれる学習意欲は、低学年でほとんどゼロに近いのですが、年齢が上がるにつれて少しずつ高まり、やがては4つの要素の頂点に立ちます。
このことは、子どもの発達的観点に立つと至極当然のことです。小学校低~中学年までの子どもにとって、親の存在ほど絶対的なものはありません。親がほめてくれたり、褒美をくれたりすれば有頂天になり、「もっとがんばるぞ!」と奮起します。また、厳しく叱られると、すっかりしょげかえり、「次は叱られないようにちゃんとしなくては」という反省を引き出すこともあるでしょう。ですから、賞罰は、4つの要素の中で一番高い効果を発揮することになります。
では、なぜ年齢が上がると賞罰の効果は減退していくのでしょうか。親を絶対視する価値観から、自分の価値観へと成長に伴う変化が生じるからでしょう。親にほめられたり褒美をもらったりするのがうれしくて頑張るのではなく、自分がめざすものに近づくために意欲を高め、頑張るようになるのです。
ここで、上表をもう一度見てください。自分の目標を達成しようとすることから生まれる学習意欲は、中学2年生から3年生にかけて急速に頭をもたげ、一気に学習意欲の主役に躍り出てきます。思春期が訪れ、自分の価値観のもとで行動しようとする、自立した人間になったことの証(あかし)でしょう。子どもが将来に向けた目標をもつには、世の中についてある程度以上知っている必要があります。大人に近い知識や考え方ができるレベルへと成熟してこそのことではないでしょうか。
この目標達成に向けた学習意欲の描くグラフの線を、改めて見てみましょう。小学校低学年時にほぼゼロに近い状態から始まり、少しずつ右肩上がりに上昇し、小学校高学年頃から中学1年生にかけて上昇カーブが上がり、そして中2から中3にかけて一気にその強さを増していきます。まさに子どもの成長の軌跡を証拠づける、象徴的なグラフだと言えるのではないでしょうか。
「わが子がなかなか受験を本気で考えて勉強する状態になってくれない」と、嘆く親御さんは少なくありません。それは、子どもがまだ先のことを考え、目標を設定するまで成熟していないからでしょう。僅か1年先のことだって、子どもにはまだまだ先のこととしか受け止められないのかも知れません。しかし、ひょんなことから目の色を変えてがんばり出す子どももいます。資料を見ると、6年生ぐらいから目標を定めてがんばり出す予兆があります。あきらめずに、いろいろな情報を投げかけているうちに、何かが原因で受験への意識が高まるかも知れません。
子どもの学習意欲を支えるいちばんの要素だった「賞罰」の効果が年齢とともに減退し、そのいっぽうで、「目標達成をめざそうとすることから生まれる学習意欲」がほぼゼロの状態から少しずつ頭をもたげる。そして、両者の役割の比重が入れ替わるのが小学6年生です。それは、子どもがいよいよ子どもではなくなり、親とは別の価値観をもった一人の人間へと成長しつつあることを意味するのではないでしょうか。