受験には間に合わなかったけど・・・・・・
3月 7th, 2011
中学受験は12歳の子どもの受験です。人間として発達途上にある小学生の受験だけに、早熟型のお子さんのほうが有利な面が多分にあります。能力開花を見ないうちに入試が来てしまい、残念な結果に終わるお子さんは少なくありません。
では、そういった懸念を感じた場合、親御さんには早めにそのことをお伝えし、受験をあきらめてもらったほうがよいのでしょうか。
筆者はそうは思いません。小学生の受験でいちばん重要なのは第一志望校に合格できるかどうかではなく、受験生活を通じて子どもが何を得るかということにあると考えるからです。金銭的な負担のこともありますが、途中であきらめてしまうと、せっかく築きつつあったものが台無しになってしまいます。
わが子の受験勉強がうまくはかどらず、どうしたものか悩んでおられるご家庭はありませんか。今回紹介する事例が、そんなご家庭の参考になれば幸いです。
<M君の例>
融通の利かない性格が仇となって入試に失敗。しかし・・・・・・
授業はいつだって、真剣そのもの。ノートを見ると、一生懸命に予習してきた様子がありありとわかります。わからなければ何度でも質問をしてきます。A君はほんとうにがんばりやでした。
ただし、彼は弱点を抱えていました。生真面目な一方、臨機応変にものごとに対処することができず、不器用な性格でした。そのせいでしょうか。一つ気になることがあると、そのことばかりに気持ちを奪われ、他の大事なことがおざなりになってしまう傾向がありました。
成績はというと、国語や社会はかなりよい成績なのですが、いわゆる理系の教科はサッパリ。テストでは、20点、30点台をとることも度々でした。でも、彼は苦手を何とかしようと必死になってがんばっている様子でした。少しでも苦手が克服できればいいのですが・・・・・・。
やがて6年生の秋になると、算数や理科のてこ入れの成果が出ないばかりか、国語や社会に成績も下がり始めました。
たまりかねて彼を呼んで面談をしました。すると彼は、「苦手な算数の予習がなかなか最後までやり遂げられず、気がつくと夜中になっているんです。それから、急いで他の予習をするんですが、ほとんどできないうちに眠ってしまうんです」と言うではありませんか。
「苦手というのは、少しずつ解消すればいいんだ。急には変われないんだから、もう少しバランスを考えて勉強しなさい。それに、“得意な教科で点を稼ぐのも一つの方法なんだからね”」と言って彼を帰しました。
後で彼のおかあさんとも話をしました。おかあさんは、「息子なりにがんばってはいるのですが。今はもう、健康のことばかりが気がかりです」とおっしゃいました。愛情深く見守っておられるおかあさんのためにも、「がんばれよ!」と、心から思ったものでした。
入試本番は、刻々と近づいてきます。何とか態勢を巻き直してくれることを祈るばかりでしたが、状況は好転しないまま入試本番に突入してしまいました。
彼の入試結果は、懸念したとおりになりました。希望していた中学校はすべてダメで、彼としては考えていなかった私学に一校だけ受かりました。そして、彼はその中学校に進学しました。
ここまでの話では、「彼のような性格、得意不得意のはっきりした子どもは、中学入試には向かないのだろう」と思われたかたも多いことでしょう。
彼についての情報を得たのは、それから3年近く後のことでした。何と、彼は学年で一けたの順位を推移しているということを耳にしました。すばらしい成長です。まじめだけれども融通の利かない性格が災いした彼ですが、だんだんとバランスのよい勉強ができるようになったのでしょう。中学受験での苦い経験の反省に立ち、試行錯誤で勉強法を改めていったのかもしれません。
そうなると、もちまえの馬力に任せた一途な勉強ぶりは大きな武器になります。人一倍向上心が強いことも、勉強の推進力になります。多くの生徒さんが中だるみになったり、部活に夢中になったりするなか、彼はそういった壁に突き当たることなくどんどん調子を上げていきました。
ときどき、「うちの子は見込みがないのなら、早めにそう言ってください」とおっしゃる親御さんがおられます。そのお気持ちもわかりますが、子どもに目標をもたせ、精一杯努力をさせることで得るものは少なくありません。途中であきらめさせる代わりに、何か別の目標を子どもにもたせられればそれはそれでいいと思います。しかし、いったんもった目標をお子さんが放棄していないのなら、ぜひとも最後まで期待を差し出し、応援してあげていただきたいのです。入試結果を超える価値ある宝物をお子さんが得る確率は極めて高いのですから。