子どもの“やる気”を引き出すためのヒント  ~その1~

7月 4th, 2011

 子どものやる気は、親や周囲の大人の配慮次第で大きく変わる可能性があると言われています。時代は変わっても、子どものやる気を引き出す働きかけさえすれば、子どもはちゃんとがんばるのです。そこで、子どものやる気を引き出す親の接し方とはどのようなものかについて、学者や学力形成の専門家の著述から参考になりそうなものをご紹介してみたいと思います。

1.“よい点”を最大限にほめる!  スペンサー・ジョンソン氏

 医学博士のスペンサー・ジョンソン氏は、コミュニケーションに関する多数のベストセラー本を出しておられます。博士の著書のなかに参考になる記述があります。簡単ご紹介してみましょう。

 少年は、おそるおそるリビングルームに入って母親に成績表を渡しました。気持ちは落ち着きませんでした。Aが二つに、Bが三つ、Dが一つ、という自分の成績を知っていたからです。歴史はDしかもらえませんでした。

 「ジェームズ・ソーンダース君」と母親は静かに話し始めました。そして、黙って成績表をもう一度見直してから、大声で叫んだのです。「君はすごい!」 少年は苦笑いをしました。「ほら、見てごらんなさい! Aが二つに、Bが三つもあるじゃないの」 そして、その子を抱き寄せながら言いました。「ジミー、おかあさんはとても幸せよ。おまえがよくやってくれたんでうれしいわ」

 この家を訪れていた女性が、「お子さんの成績表にはDが一つあったんじゃありません?」と解せない顔をして尋ね、さらに、「Dについて何も言わないのは親として無責任では」というようなことを言います。すると、「よい成績をとろうと努力するのは子どもの責任です。母親がその責任を取ってしまったら、自分で責任のとれない子になってしまいますわ」と母親は答えます。そしてさらに、「責任(responsibility)という言葉の意味についてお考えになるといいと思います。これは、対応(response)する能力(ability)のことを意味しています。私が子どもにできる最大の贈り物は、人生に対応させることなのです。私は、子どもが進んで自分の責任を担っていけるよう、手伝っているのです」と、答えます。実は、この母親はよい点をほめることで、ほとんどCだったジミーの成績を今の成績にまで引き上げたのでした。母親に認めてもらったジミーは、率先してがんばったのです。

2.子どもに“共感”する!  汐見稔幸氏

 汐見稔幸氏は、東京大学大学院の先生でしたが、東京大学附属中等教育学校の校長を務められたご経験もあります。その汐見先生が、子どもの考える力を育てるための簡単なコツを書いておられました。これは、やる気を引き出すことにも通じるでしょう。内容は、だいたい次のようなものです。

 子どもの考える力を育てるためには、何ごとにつけても「自分自身が主役なんだ」という意識をもたせ、「自分が好きでやっていることだ」というところをできるだけ保証してやることが大切です。「親の言うことを聞きなさい」という会話、命令する・指示する会話をできるだけ減らすということです。親は忙しいですから、「早く」とか「いい加減にしなさい」と言いたくなるのは当然ですが、子どもとの会話の時間を大切にし、そのときには聞き役になることも必要です。子どもにとっては、「親が一生懸命考えて応えてくれた」ということがとても重要なのです。そういうことを続けていると、子どもに自分で考えて行動する力が自然と育っていきます。

  1. ・親の考えていることをすぐに「やってちょうだい」という形にする会話を避ける。
  2. ・聞き役になり、共感することに徹する。

 この二つのことを心がけるだけで、子どもは考えながら話すようになるそうです。

3.“ピグマリオン効果”を引き出す!  桜井茂男氏

 筑波大学心理学系教授の桜井茂男先生は、子どもの学習意欲の研究者として知られています。その桜井先生の著作に、子どもの意欲を引き出す効果的な励まし方について参考になる記述がありますので、簡単にご紹介してみましょう。

 教師が学業成績の悪かった子どもに対して、「もっとがんばりなさい」と激励する姿をよく見る。しかし、能力がなければいくら努力したとしても無駄ではないか。私たち日本人は「努力」を大切にするあまり、それに頼りすぎてはいまいか。「ほんとうは頭がいいのだから、もっと努力してごらん」とか、「能力はあるのだから、がんばればよい点がとれるよ」というような潜在的な能力のあることを理由として激励する方が効果的ではないか。そこで私は、小学生、中学生、大学生を対象として、教師から「努力不足だから努力しなさい」と激励される場合と、「本当は頭がいいのだから努力しなさい」と激励される場合とを比較し、どちらが学習意欲や教師への好感度が高まるかを調査した。

 結果は、小学生も、中学生も、大学生も、潜在的な能力を理由に激励されるほうが学習意欲も教師への好感度も高まることが示された。

 「がんばりなさい」という励ましは、どのご家庭でも熱心にされていると思います。しかしながら、「子どもの能力を認めた、力強い励ましをしていますか?」と言われると、「もちろん、やっていますとも」と答えられる人は、意外と少ないようです。「わざとらしくて、照れくさい」と感じられるかたもおありかもしれませんが、自然に言える言い回しを考え、ぜひ試していただきたいと存じます。

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