子どもに受験という目標をもたせる意義

1月 30th, 2012

 小学生の受験指導をしていると、子どもに目標をもたせることがどんなに重要なことかを実感させられることが度々です。「お兄ちゃんと同じ、あの私学に進学したい!」「おかあさんの母校、○○中学に絶対合格したい!」「文化祭や体育祭の楽しそうだった、あの中学校がいい!」――それぞれの動機を胸に、小さな受験生達は一心に勉強に打ち込み続けます。

 小学生のことですから、私立や国立の中学校について大人のように詳しく知っているわけではありません。まして、受験勉強を始めた頃など、どんな学校があるのかさえ知らないほどです。ところが、受験勉強をしているうちに、いつの間にか子どもなりに得た知識で受験を考え、行きたい中学校が決まってきます。そして、前述のように、受験に馳せる思いを胸にがんばり始めるのです。

 1年、2年前、「遊びに来ているつもりじゃないの?」「友だちとおしゃべりするために塾にきているのか?」と、私たちを嘆かせた子どもが、6年生になるといつの間にか一人前の受験生になっているのに気づき、驚かされるのは毎度のことです。

 教育心理学者の研究によると、小学校高学年の子どもの学習意欲を支えるのは、「親が示す期待」と「知りたいという欲求」です。目標を定め、その達成を願う気持ちが学習意欲に反映されるのは中学生になってからのことです。

 しかしながら、進学塾に通い、「受験をするのだ」と教えられ励まされながらの学習生活をしているうちに、中・高一貫校というところがどういうところなのか、どんな学校があるのかを理解するようになります。そして、子どもなりに目標を定めて本気でがんばり始めるのです。私たちを感心させるほどの素晴らしい取り組みで、学力をぐんぐん伸ばしていく子どもも少なくありません。これは、受験という目標を与えたからこそのことです。

 無論、受験勉強は楽ではありません。「受かりたい」という気持ちが高まると、子どもといえども不安を募らせるようになります。ちょっとした苦手科目の存在すら、悩みの種になりがちです。スランプに陥った子どもが、「もうダメかも知れない」という絶望感と必死で闘いながらがんばっている様子を見て、かわいそうになることも度々です。
 しかし、いったん目標を定めた子どもは、そうそう諦めません。あこがれの中学校への進学を夢見て、一途にがんばり通します。こうしたひたむきさが、奇跡を呼び起こすことも珍しくありません。

 入試を終えた子どもたちが、「受験しない自分など考えられない」という感想を語るのをよく耳にします。入試への挑戦が自信と誇りをもたらしてくれたのでしょう。これは、何も第1志望校合格の栄誉を手にした子どもだけに限りません。結果こそ様々ですが、「自分の精一杯を尽くせた」「最後までやり通した」という実感を得た点では変わりないのです。子どもたちの、入試を終えた後の晴れやかで清々しい笑顔は、何よりもそれを物語っています。

 私たちは、そこに中学受験の善さがあるのだと思っています。大きな目標をもち、その実現に向けて努力を積み重ねる。この体験が、子どもを成長させるのです。
 また、この努力のプロセスを通じて、何かに打ち込んだからこそ得られる手応えや効力感が、どんなに重要なものかを知ったことも見逃せません。それを子ども自身が実感したからこそ、受験という目標がなかった場合の自分とを、比較して考えずにはいられなかったのでしょう。

 言うまでもありませんが、中学受験は長い人生のほんの一区切りの体験に過ぎません。しかしながら、この体験の価値は決して小さくありません。受験を終えた子どもたちは、受験への挑戦を通じて得た様々な収穫を糧に、新たな目標の達成めざして一層の努力をしていくことでしょう。

 

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