子どもの気持ちを言葉にしてやる
3月 26th, 2012
前回は、親子関係をよくする会話のありかたについて書いてみました。今回も引き続き、子どもとの良好な関係を気づくための親の言葉かけについて考えてみたいと思います。
子どもは、自分を責められると腹を立てます。そして、自分のした失敗の責任を他の何かに転化して言い逃れをしようとします。親は、そんな子どもの態度に腹を立てます。そして、子どもを一層とがめることになります。高学年の子どもともなると、かなり豊富に語彙をもっていますから、攻撃的な言葉で反論してくることもあります。そこで、親の側も興奮してしまうことも珍しくありません。
弊社のような進学塾にお子さんが通っておられる家庭では、どうしても学習の取り組みやテストの結果がいざこざの原因になりがちです。よく、子どもはおかあさんのことを「オニ」という比喩を使います。テストの結果が悪かったときには、「家でオニが待っているから、今日は帰りたくない」などと冗談とも本気ともつかないことを言うときがあります。
このようなとき、大抵親子のいざこざが生じるものです。おかあさんも、はじめは叱ったり怒鳴ったりするつもりはないのでしょう。しかし、子どもは「どうせ叱られる」と開き直っていたりするもので、売り言葉に買い言葉となり、ついには互いが怒りを噴出させることになりがちです。
子どもが興奮して爆発したとき、深層に何らかの不安や絶望、無力感などの感情をかかえているものです。親は、表面には表れない子どものそうした心の状態に目を向けてやる必要があります。すなわち、子どものふるまいに反応するのではなく、子どもの動揺した感情をすくい取って理解し、子どもが冷静になるのを助けてやるのです。
以下の話は、前回ご紹介したギノット氏の著作にあった記述を参考にして書いたものです。
小学4年生のハナちゃんは、夏休みが終わろうとしていたある日、涙ぐんでいました。夏休みをいっしょに過ごした、いとこのやよいちゃんが自分の家に帰ることになったのです。でも、ハナちゃんの悲しみを、おかあさんはわかってくれません。
花子:(涙を溜めて)やよいちゃんがいなくなっちゃう。わたし、また独
りぼっちになっちゃう。
母親:別の友だちが見つかるわよ。
花子:とってもさびしいの。
母親:すぐにさびしさなんて忘れるわよ。
花子:でも、やっぱりさびしい。おかあさん!(すすり泣く)
母親:あなた、4年生にもなって、まだそんなに泣き虫なの。
このあと、ハナちゃんは部屋に閉じこもったまま、長い時間出てきませんでした。親にすればたいしたことではありません。しかし、子どもの気持ちを理解し、受け止めてやる必要はありました。では、このときおかあさんはどう対応すべきだったのでしょうか。それは、子どもの気持ちを言葉にしてやることでした。たったそれだけのことで、ハナちゃんの気持ちは随分救われたはずです。
「やよいちゃんがいなくなると、随分さびしくなるね」
「一緒にいるのに慣れていたから、別れるのが辛いのね」
「やよいちゃんがいなくなると、きっと家のなかがガランとしているように感じるわね」
おかあさんがこのように反応すれば、親子の間に親しみが生まれます。理解されたと感じると、子どもの寂しさや心の痛みはやわらぐし、親に対する信頼の気持ちも深まります。親の共感が、傷ついた気持ちの応急処置をしてくれるのです。親が素直に子どもの苦境を認め、子どもの落胆の気持ちをすくい取ってやると、子どもは辛い現実に向き合う力を取り戻すことができます。
このことからおわかりいただけるでしょう。子どもがしょげたり、悲しんだり、怒ったりしているときには、子どもの心情に寄り添い、子どもの気持ちを言葉にしてやりさえすればよいのです。
テスト結果が悪かったとき、子どもはやるべきことをやらなかったことに対して十分に反省しています。改めて反省を促したり求めたりする必要はありません。ただ、悔しく残念な子どもの心をすくい取って、子どもの気持ちを代弁してやればよいのではないでしょうか。