受験で忘れられがちな大切なもの
5月 14th, 2012
進学塾で仕事をしていると、子どもの自主性を重んじることがいかに難しいかを実感させられるものです。特に、弊社のような小学生相手の学習塾は、待つということの重要性をしっかりと認識して指導にあたる必要があります。
受験生は、まだ幼さの残る小学生の子どもです。そんな子どもが、1年2年後に受験を迎えるのですから、気持ちはノンビリというわけにはいきません。それどころか、早く勉強にめどをつけさせてやりたいという願いから、ややもすると指示や命令で子どもを動かしたくなります。
これは、受験勉強だけのことではありません。家庭においても同じことが起こりがちです。子どもが自発的に何かをやり出すのを黙って見守ることができず、つい口出しをしたり、手を貸したりするおかあさんはいらっしゃいませんか。親もまた、同じ苦しみと闘いながらの子育てを余儀なくされるものです。しかしながら、その苦しみなしに立派な人間は育ちません。
今日の子どもの傾向として、「行動の主体性がなく、何ごとにつけ淡泊で、執着心をもって何かをやり遂げようとする姿勢が足りない」という指摘が多いのは、こうした大人の過剰な干渉によるものではないかと思われます。
無論、大抵の大人は子どもに自発性や意欲的な態度をもってもらいたいと願っています。ところが、何ごとにつけても結果を早く求めがちな今日においては、ゆっくりじっくり子どもの成長を見守るということが難しくなっています。
しかしながら、このような時代だからこそ、子どもたちに必要なものは何かをしっかりと見据え、必要な対応をすることが大人に求められているのだと思います。
21世紀は高度知識社会であると言われます。このような社会を生き抜くために何が必要かというと、常に新しい知識を吸収して自分のものにし、時代の変化に対応していく能力です。そのような能力は、受け身の学習で育った人間には期待できません。新奇なものに興味関心を寄せ、自ら知ろうと行動する能動性なくしては、時代に流れについていくことなど期待できるはずがありません。
私たち進学塾には、「子どもたちを合格に導く」という第一の使命があります。ただし、「どのような方法を用いても、子どもが合格すれば私たちの使命を果たせたのだ」とは思っていません。もしも合格のみを頭に置いて指導したなら、前述のような手取り足取りの学習指導に陥る危険性が極めて高くなることでしょう。
そうなると、子どもの自主性など全く考慮の余地はなくなります。学びの主体性や推進力をもたない子どもは、中学校に入ってから、どうやって自らの勉強の舵取りをするのでしょうか。
では、子どもが学びの自主性や主体性を身につけるにはどうしたらよいのでしょう。それを一口で説明するのは困難ですが、簡単に言えば次のようなことになるでしょう。
毎回に授業において、私たちはいずれの教科の指導においても、子どもに「勉強って、面白い!」というプラスのイメージを浸透させるよう心がけます。勉強に対してよいイメージをもてば、自分から進んで勉強に取り組もうという気持ちが湧いてくるからです。まずは、「学習意欲」というわけです。
また、勉強を自分で推進していくには、「学習方法」が子どもにわかっている必要があります。そこで、4・5年生には授業を通して「授業はどのように受けるべきものか」「家庭では何をどう学んだらよいか」を指導していきます。
さらには、勉強をやらなければと思っても、テレビやゲームなどの誘惑に負けてしまう子どもがいます。この問題は、勉強を「習慣づけ」することで乗り切ることができます。いつも決まった時間に勉強することを習慣づけると、体が勝手に動くかのように机に向かえるようになります。こうなるために、「学習計画」を立てることを指導するのはもちろんのこと、授業日と家庭勉強の日を交互に組むなど、家庭勉強の習慣づけがうまく行くようなシステム上の配慮も行っています。
他にも必要なことはいろいろありますが、柱になることを簡単にお伝えしてみました。いずれにせよ、子どもたちが自発的に学ぶ姿勢を身につけるには、多くの試行錯誤と時間が必要です。指導する私たちにも子どもを動かす情熱が求められます。さらには、ご家庭の支援が不可欠です。大変手間のかかるプロセスが避けられませんが、うまく軌道に乗ったなら、「自ら学ぶ力」を備えた人間に子どもは成長することができます。
高度化の進んだ社会では、学んだ知識や技能はどんどん古びていきます。しかし、新しい知識や技能を自らのものにしていく術を身につけている人間は、全く心配要りません。必要なことを自分で算段して絶えず自らに取り込んでいくことができるからです。
このような人間になる最大のチャンス。それが中学受験をめざした学習生活です。保護者におかれては、このような弊社の考えをご理解いただき、お子さんが自立した学習者になれるよう、忍耐強く応援していただきたいと存じます。お子さんが受験のプロセスで、自ら学ぶ人間に一歩近づけたなら、それこそが一番の収穫であろうと思います。何よりもそれを実感されるのは、中学進学後のお子さん自身です。