「わからない」と「わかる」の境目は?

6月 11th, 2012

 勉強というものは、したらした分だけ成果があがるかというと、そうはいかないのが現実です。うまく成果が引き出せない場合、「勉強が足りなかったのではないか」「勉強法が間違っていたのではないか」「どこがわかっていなかったのか」「問題が難し過ぎたのか」など、いろいろ振り返り、問題点を見つけては、足りない点を埋め合わせていくことになります。

 成績不振が続く子どもの面談をする場合、そうした問題点の在処を探り当てるべく、様々な角度からそれまでの取り組みを振り返ってもらうようにしています。無論、日頃授業を担当している子どもの場合、性格もある程度わかっていますし、授業の様子、勉強に取り組む姿勢もわかっており、問題点をあらかじめ掌握していることも多々あります。

 しかしながら、ときには面談をしても打つ手が見つからないことがあります。たとえば、子ども自身どこがどうわからないかすらもわかっておらず、自分の状態を説明できないようなときです。こうなると、指導担当者も「その子は全然わかっていない」ということしかわからず、アドバイスのしようもなくなるわけです。

 学習で成果をあげるには、学習者にメタ認知的な視点(どこまでがわかっており、どこからがわかっていないかなど、自分の認知の状態を客観的に掌握しようとする視点)が不可欠であり、子どもたちには、現状を振り返ってもらいながら問題点を一緒に探っていくわけですが、それができないような場合には、対処の方法が見出しにくくなってしまいます。

 ある本を読んでいたら、これに似たような話が載っていました。ちょっと紹介してみましょう。

 私が教えていた中学生の女の子は、希望する高校には入れそうもないということで、最初の頃は、何が分からないのか、どんな科目が苦手なのかを聞いても、「うーん」とか、「分からへん」とか言うだけで、返事らしい返事もできなかったんです。ところが、三カ月くらい経ったときの期末テストで、テストの結果を悔やむようなことを言い出したのです。彼女のお母さんは心配していたのですが、私は、彼女が何を分かっていなかったのかが分かり始めたのだと直感しました。その一年後、その子は奇跡的に希望高校に受かったのです。「分かる」ということは、「分からない」ことを分類するとか、自分にあった方法、自分がどうやっていけばよいのかという道筋を本人が見つけるとか、ということにもつながるのかと思って・・・・・・(以後省略)。

 これは、ある人物が家庭教師をしたときの話だそうです。ここで紹介されている生徒さんは、自覚的に勉強に取り組み始めたことが学力形成の好循環を引き出すための契機になったのでしょう。ある程度取り組んだからこそ、テストがただ漠然と「わからなかった」のではなく、「できそうだった問題があったのに、うまく答えを導き出せなかった」というところに漕ぎつけることができたのです。

 学者によると、「わかる」は「分かる」であり、「分かつ」に通じるものです。ボンヤリした学習の対象を、構成要素ごとにバラバラにし、そこから改めて全体として頭の中で組み立てて理解するのが「わかる」ということです。

 小学生の場合、自分がどの程度わかっているのか、どこがどうわからないのかということを客観的に掌握する力が十分に育っていません。また、勉強をしていく手順もわかっていないケースも多々あります。学業面で壁に突き当たったり、成績に悩んだりしておられるお子さんの場合、ただ「がんばれ!」と叱咤激励するのではなく、今の取り組みの様子を掌握し、やりかたがわかっているかどうかを確かめ、一定の期間励ましながら取り組みをサポートしてやることも必要でしょう。

 弊社のテキストの場合、単元のはじめにある「学習の要点」をしっかり理解できることが重要な第一歩です。授業では、必ずこの「学習の要点」をみんなで考えていきます。そこがわかったところで、練習問題に進みます。

 成績が振るわないと、「家庭教師を雇うか、親が面倒を見たほうがよいのではないか」と思われるかも知れませんが、お子さんがわかっているところとわからないでいるところを識別し、自覚的に学ぶ姿勢を備えないことには学力(将来的視点に立った学力)というものは伸びません。

 お子さんの学習状況が思わしくない場合、まずはここで述べたような視点からお子さんを見守ってみてください。どう対処してよいかわからない場合は、少しでも早く校舎にご連絡いただき、指導担当者にご相談ください。

 なお、先ほど引用したエピソードは、中公新書1887「遺伝子・脳・言語 サイエンスカフェの愉しみ」という本に掲載されていたものです。この本は、わが国の遺伝子研究と脳研究の最先端にいる学者の話が楽しく紹介されており、おとうさんにお勧めしたい本です。お子さんに「勉強の奥深さや面白さを伝えてやりたい」とお考えのかたがたに、よいヒントを与えてくれると思います。

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