大切なことを自分で決められる子どもに

6月 18th, 2012

 レストランで食事をするとき、数あるメニューのなかからどれを選ぶか、悩ましい思いをしたことはありませんか? おそらく、どなたにもあると思います。

 このように、迷ったときにどれを選択するかにあたっては、過去の経験で得た知識をもとに判断を下す脳部位があると言われています。脳卒中を患った人の事例からわかったことで、そうなると単純な判断すらできなくなり、あれかこれかという二者択一の選択まで不能になると言います。

 これはある学者の書物に書かれていたことです。何人かでレストランに行ったとき、一人だけオーダーが決められずにモタモタする人がいました。その人はトップランクの国立大学の大学院生でした。そのときだけならまだしも、その人は万事につけてそうした傾向があり、ものごとを自己決定するのにまごつく人物だったそうです。

 同じ学者の書物にあった話をもう一つ。とても優秀な成績をあげているのに、大事なことをなかなか自分で決められない学生がいました。卒論を仕上げるのにも、その先生のサポートがだいぶ必要になったそうですが、ただ仕上げに苦労するのではなく、卒論のテーマ選びから難渋したと言います。

 その学生は、与えられたことをすることはできても、自己決定を要求される案件では、自分の判断で決められないタイプの人間だったようです。「おそらく、大学へ進学するまでの人生において、重要なことを自分で決める経験がなかったのではないか」と、その先生は述べておられました。

 自分で目標を掲げ、その達成に向けて自ら戦略を練って学んでいく姿勢は、人生を充実させるうえで不可欠のものです。しかしながら、近年は優秀とされる人間にこうした自己決定の力が欠落しているケースが増えているそうです。どの中学・高校を受験するか、どの大学に進学し何を学ぶか。そういう人生の歩みに関わる重要な選択を他者に依存してきたため、自分でものごとを判断し決める力を養わないまま大人になってしまったのでしょう。

 今の例に関連する要素に、段取り力というのがあります。いろいろやらねばならない事柄があるとき、重要度や危急なことかどうかを基準に判断し、優先順位の高いものからやりこなしていく能力です。この段取り力も、自己決定の能力に負けず劣らず、実社会を生き抜いていくのに重要な役割を果たします。これらは、一般に「人間力」と言われます。

 こうした能力は、遺伝とは無関係で、育った環境や経験によって決まります。いろいろな要素を頭に置き、何を選ぶべきか、何から手をつけるべきかを判断する。そうした能力を磨いていくような体験が、子どもが成長していくプロセスで必要なのですね。

 実際、できる子、真に優秀な子は、この段取り力に長けています。そうした力があるからこそ、学力を合理的に適正にレベルアップさせていくことができるのです。中学受験を突破するだけでなく、その後も素晴らしい勢いで伸びていくのは、大概この段取り力を自らに備えていた子どもです。もともと遺伝的に備わった能力ではありません。自己決定力や、段取り力をうまく伸ばしていくような子育てを、おとうさんおかあさんがしておられたのでしょう。

 冒頭の大学院生のような人間が増えているのは、子ども時代に伸ばしておくべき能力を大人が肩代わりしてしまったからではないでしょうか。中学受験は、絶好の自己習練の場になるというのに、大人が余計な手出しをして伸びる芽を摘み取ってしまったのです。

 今、弊社の各校で「おかあさんの勉強会」という行事を行っていますが、昨年の会において、この段取り力を最もシンプルな形でわが子に授けているおかあさんがおられたことを思い出します。「勉強と遊びと、どっちを先にしたら、気持ちいい?」――ただ、それだけなのですが、優先順位や自己決定の判断を子どもから引き出す名案だと思いました。

 このように、何から手をつけるべきか、何が重要かの判断を子ども自身にさせ、自己決定をしてものごとをやり遂げることの気持ちよさを味わわせる。それが子育てには必要なことだと思います。そして、子どもの判断を見守り、評価してやるのです。

 親にとっては、かなりの負担かも知れません。塾での成績本位に考えると、どれをいつ勉強するかを子どもの判断に任せたり、子どもに決定させたりするのは無駄が多く、イライラを募らせることになるでしょう。しかしながら、子どもの真の成長というものは、もどかしい試行錯誤あってこそ引き出せるものです。

 毎日の小さな決めごとから出発し、子どもに自分で判断し決定するチャンスを与えてやりましょう。そこから、人生において最も重要な能力の芽が確実に伸びていくことでしょう。

Posted in 子どもの自立, 子育てについて, 家庭での教育

おすすめの記事