私学のよさをじっくり考える

7月 9th, 2012

ひと頃のような私学ブームは去りました。人気の高い私学の入試にしても、受験生の数は最も多かった頃の半数程度に落ち着いています。おかげで、入試合格を巡る競争も随分緩和されています。

 理由は、何と言っても構造不況が国の様相を変えてしまったことであろうと思います。また、少子化による大学全入時代の到来、公立学校の改革などによって、無理に私学にお金を投じて子どもを通わせなくても、ある程度勉強すれば相応の大学に入れるようになったこともあるでしょう。

  しかしながら、「猫も杓子も私学へ」といった過剰な私学(中学受験)ブームが去った今、かえって冷静に「私学とは何か」「私学のよさはどういう点にあるのか」ということを考える余裕が生まれてきたのではないでしょうか。わが子にふさわしい教育環境を与えるという、本来の私学進学の目的に添って学校選びができるようになったという点では、歓迎すべき状況かもしれません(学習塾には経営面で辛いのですが)。

  先週、先々週と、弊社主催の私学紹介イベントの様子をご紹介しました。来春受験を迎える6年生の子どもたちに、私学のよさを子ども目線で感じ取ってもらい、来春の受験に向けてモチベーションを上げていこうという意図で実施した催しです。

  筆者は、長年広報業務を担当していますが、この催しを始める12年前までは、私立の中・高一貫校との交流はさほどありませんでした。しかし、イベントを継続的に実施するにあたり、毎年私学を訪問して授業の様子や、クラブ活動、学校環境、昼休みの様子などを撮影させていただくようになってから、筆者自身の私学に対するイメージが随分変わりました。

  とりわけ私学のよさを実感させられたのは、各私学の先生がたのご様子からでした。私学の先生には、素晴らしい学校愛があります。広報担当の先生とお会いし、いろいろお話しさせていただいているうちに知ったのですが、私学にはその私学でかつて学んだ先生がたが相当数おられます。つまり、母校で教鞭を執っておられる(古くさい表現ですが)わけです。そのこととも関係があるのでしょう。先生がたは心から学校に愛着をもち、母校の後輩である生徒さんを熱心に指導しておられます。

  特に、先生から個別に自校のことについてお聞きすると、学校に対する熱い思いがほとばしり出るように感じることが少なくありません。

  余談ですが、筆者は高校まで公立の学校に通いました。公立学校の先生は、数年で勤務校が変わります。ですが、筆者にとっての母校の先生は、当時担任だった先生だと思っています。高校では、3年間で二人の先生に担任をしていただきましたが、たまたま二人とも力のある先生だったので、卒業後もどの学校におられるのかすぐにわかりました。しかし、残る大半の先生はどこに行かれたのかも全くわかりません。これは公立校の宿命であり、よいか悪いかの問題ではありません。

  ただし、そこに私学と公立学校の大きな違いを感じます。私学は、一つの理念を掲げた学校の名のもと、教師と卒業生が固い絆で結ばれていいます。公立学校の先生は、たくさんの学校の先生ですから、あくまで教師と生徒の関係が主体で、先生にとっての卒業生は、「○○高校にいたときの卒業生」でしかありません。そう思うと、尊敬する先生のことを「母校である○○校の先生」と言い切れる、私学の生徒さんを多少うらやましく思う気持ちになります。

  多感な時期の体験は一生を左右します。どの中学・高校に通ったかも、この点にからんで大きな影響を及ぼします。卒業生は、人生の節目に突き当たるたびに、学校時代の体験で刻み込まれた記憶を引き出しては自分の選ぶべき道を考え、様々な局面を乗り切っていくことでしょう。意識しなくても、必ずそういうことはあります。その意味で強い影響力をもつのが私学であろうと思います。

  今回は、私学のよさといっても、「私学の先生」について、しかもその一面についてしか書けませんでした。私学には、建学の精神や、私学としての教育の理念などがあります。本来は、そういう要素をあげて書くべきでしょうが、そういう視点からの私学のよさを書くほど筆者には各私学に対する深い知識はありません。ですから、思いつきですが、私学紹介のイベントを通して気づいた私学のよさについて若干ふれさせていただきました。

  ただし、筆者は大学は私学です。150年以上の歴史をもちますが、今も「社中」という言葉が残っているように、「同じ目的をもった集団、仲間」という意識があり、その集団、仲間の子弟教育を請け負うことからその私学は生まれました。この言葉のなかに、私学の本来の立ち位置や存在理由を見出すことができます。

  わが子ををどの学校に通わせるか。それは、受かったなかから決めるしかないわけですが、いくつのも学校に受かったとき、各学校、とりわけ私学については親子で様々に話し合い、最もお子さんにふさわしいと思われる学校を選んでいただきたいと思います。

 無論、どの私学にもそれぞれに特有のよさがあります。たとえ1校しか受からなかったときも、その学校のよさを思い起こし、お子さんが希望に満ちて入学式を迎えられるよう、配慮してあげてください。実は、それがお子さんが私学で成長できる一番の秘訣です。


Posted in 中学受験, 家庭学習研究社の特徴, 私学について

おすすめの記事