中学受験生こそ“読書の秋”を!
9月 10th, 2012
前回、受験が近い6年生になってからも読書三昧の生活を送り、志望校に合格した(してしまった)子どもの話を書きました。
しかしながら、さすがにそこまで読書に傾倒する子どもはごく少数です。読書にはかなり時間が伴いますから、受験が近づくとさすがに大抵の子どもは読書を封印するものです。
中学受験生の読書について、筆者の考えを述べさせていただくと、受験を控えた6年生であっても、週に2~3日、1回20~30分程度なら読書はしてもよい、と言いますか、むしろすべきであると思っています。
何といっても、よい気分転換になります。また、知らず知らずのうちに新しい語彙が相当数増えますし、いろいろな知識や考えかたが身につきます。さらには、文章の内容を集中して読み取る能力が磨かれます。読書がマイナスになることはありません。「決めた時間枠のなかで」という但し書きを守る限りにおいて、子どもにとって読書はいいこと尽くめなのです。
実際、筆者は6年生の男子クラスを担当していた頃、夏休みまで授業のたびに子どもたちに本を紹介していました。男子の場合、大人のような思考に届かないまま6年生になってしまった子どもも相当数おり、人物の内面を表現した作品などは子どもの精神面の成長にとっても有効であろうと思っています。まして、4、5年生の子どもは、具体的な思考から抽象的な思考へと子どもの内面が急速に成長していくべきときです。そうした成長は読書と深い関係があります。
次の資料を見てください。小学校の4~6年生が、いかに子どもの内面の発達の著しい時期であるかを知ることができます。
語彙量の変化 (坂本一郎)
年齢 |
語彙量 |
年間増加量 |
増加率 |
6歳 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 |
5,661 6,700 7,971 10,276 13,878 19,326 25,668 31,240 36,229 40,462 43,919 |
1,039 1,271 2,330 3,602 5,448 6,342 5,572 4,989 4,233 3,457 2,521 |
18.4% 19.0 28.9 35.1 39.3 32.8 21.7 16.0 11.7 8.5 5.7 |
語彙の増加が最も著しい時期が、これでおわかりいただけたでしょうか。9歳~11歳頃が、人生で語彙の増加が最も著しい時期なのです。10歳の年間語彙増加率は、39.3%にも達します。語彙増加量は、11歳の6342が生涯最高値です。
このように、小学校高学年のときにみられる圧倒的といえるほどの語彙の増加は、「語彙の爆発」と言われています。
「低学年や幼児のときに語彙が増えるのかと思っていた」とおっしゃるかたもあるでしょう。なぜ4年生頃から語彙が爆発的に増えるのかというと、読書が活発化するからです。読書は活字とふれあい、仮の体験をする行為です。読書は、活字を読む能力が一定レベルに達し、読んで知識を得ることが楽しくないとできないことです。したがって、子どもの読みの態勢が整う3~4年生から読書が軌道に乗り、こうした語彙の素晴らしい増加という現象が生じるのです。
幼児期から小学校入学のころまで、子どもにとっての語彙獲得の場は主としておかあさんとの日常会話でした。会話を通して、生活レベルで必要な基本語を獲得するわけですが、これだと語彙の増加は読書によるそれよりは数段ゆっくりとしたペースにならざるを得ません。
語彙の爆発は、微妙なニュアンスの違う言葉を識別したり、抽象的な意味合いの言葉や概念を表す言葉の理解・使用を可能にしたりしてくれます。ここをうまくクリアすることで、中学受験で求められる思考のレベルに到達することができるのです。
もしも、子どもから読書を奪ったならどうなるでしょう。あの圧倒的と言えるほどの語彙の増加現象は生じません。近年は、子どもの活字離れがしきりに取り沙汰されています。しかし、そういう子どもは、到底中学受験で求められる思考能力を手にすることはできません。「読書は勉強の邪魔」という考え方も適切ではありません。読書こそ、中学受験生に必要不可欠なものなのです。
とはいえ、読書は目的意識をもってするような行為とは異なります。本に描かれている世界に没頭し、心底楽しむべきものです。ときに時間を忘れるほど物語の中に入り込む。そういうなかから、様々な知識も考え方も子どものものになっていくものです。本に書いてあることを覚えよう、理解しようという意識は不要のものです。
お子さんが4~5年生なら、今こそ大いに読書を楽しむべきときです。大いに本を読ませてあげてください。これから勉強やスポーツに最適なシーズンを迎えますが、「読書の秋」という言葉もあるように、静かに本を読むのに最も適した時期でもあります。
本嫌いなお子さんには、活字が大きく、絵のたくさんある本でも構いません。年齢相応よりも易しい本だって構いません。無理に難しい本を読んでも得るものがなければ苦痛なだけ。お子さんが、心底楽しめることが大切です。それでこそ感情移入があり、感動があります。心が動く読書体験から、子どもの素晴らしい成長が始まるのだと思ってください。
さあ、読書の秋が始まります!