できる子どもは手で考える?

10月 15th, 2012

 算数・数学を専門にしている人の書物を読んでいたら、ほんとうに算数の能力が高いのはどういう子どもかについて、「なるほど」と思う記述がありました。

 これから中学受験に向けた準備学習を始めるご家庭や、受験勉強を始めている4・5年生のご家庭の参考になるのではないかと思い、今回はそれを話題にしてみようと思います。

 中学受験を考えている小学校高学年の子ども2人に、かなり難しい算数の文章題をやらせたとしましょう。どちらも成績は優秀です。

 A君は、問題に取り組み始めてから約20分、じっと考え続け、先生が堪らずに声をかけると「わかりません」と言いました。先生が考え方について解説をすると、うなずきながらメモをとり、「なるほど」と納得したようでした。

 Bさんは、問題文の数字のところにアンダーラインを引き、しばらく問題文を読んで考えていましたが、解決の糸口が見つからないようでした。そして、「これは足し算でしょうか、それとも引き算ですか?」と尋ねてきました。そして、ヒントを与えられるとあっという間に答えにたどり着きました。

 さて、どちらが優秀なのでしょうか。この本の著者によると、2人とも問題を抱えている子どもだそうです。

 A君のほうは、ただ一生懸命に考えるだけで、答えを引き出すために何の試みもしていなかったところに問題があるようです。たとえ問題が難しかったとしても、解決の糸口を見つけ出すために、いろいろと試すことをしなければ、今以上に伸びることはできません。

 これも著者が紹介しておられたことですが、数学のできる子どもとできない子どもを、ビデオを撮って比較した実験があるそうです。すると、できる子どもの特徴は初めから手が動いているのだそうです。表にしたり、図にしてみたり、とにかく様々な試みをして突破口を見つけ出そうとするのです。

 一方、できない子どもは手が動きません。説明を受けるとうなずく。しかし、いざ別の問題に取り組ませると、また同じことの繰り返し。「ほら、このように図を描くんだったね」と教えられると、「あっ、そうでしたね」とわかってくれる。しかし、結局自ら図を描いて考える方法を身につけようとしない。

 Bさんはどうでしょうか。Bさんは、計算力に優れた子どもです。答え方の糸口さえ見つかれば、あっという間に式をつくって答えにたどり着きます。しかしながら、いちばん肝心な思考の部分が欠落しているところに大きな問題があるのだそうです。「足し算か、引き算か」を尋ねるのは、考えることをやめてしまった子ども特有の質問だというのです。

 つまり、この2人は見かけ上の成績は優秀でも、どちらもほんとうの意味で優秀とは言えず、やがて行き詰まってしまう子どもの典型的なタイプのようです。

 「図にして考えてみよう」「表にしてみよう」――これは、弊社に限らずどの学習塾でも子どもたちに教えていることであろうと思います。しかしながら、4年生や5年生で取り組む問題のレベルでは、ちょっと頭のよい子どもなら図などにしなくてもすぐに答えに到達してしまいます。そこで、「図なんか描かなくたって、ボクはできるんだから」と勘違いをしてしまう子どもがいます。

 そうした勉強のツケは、6年生の秋に入試問題に取り組み始めてから払わされることになります。入試問題では、図にして考えなくても答えにたどり着けるような問題はごく僅か。図を描いて一つ目のバリアを突破し、さらに次の段階でもう一つのバリアを突破しなければ答えられないような問題が増えてくるのです。そうなったとき、図や表にして考える癖をつけていない子どもは、壁に突き当たってしまいます。

 6年生の秋以降になると、休憩時間にも子どもたちは算数の難しそうな問題に取り組み、「ああでもない、こうでもない」と、解法の突破口を探している姿を見かけるようになります。そんなとき、「あっ、わかった!」と声をあげるのはたいがい図や表を描きながら考えていた子どもです。

 このように、課題が難しくなればなるほど、突破口を見出す能力が問われます。そのためのいちばんの武器は、手を動かしながら考えることです。いくら計算力に長けていても、立式に至らなければ答えにはたどりつけません。

 基礎を学んでいるうちにこそ、思考の道筋を自ら切り開いていく能力を磨いておきたいものです。それには、手を動かすこと。そして、図や表や絵にして突破口を見つけ出すような勉強を積み重ねておくことが必要なのですね。

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