わが子の受験で親も成長できる

3月 11th, 2013

  受験シーズンが終わりを告げると、入試を終えた家庭から受験の体験記が各校舎に次々と寄せられてきます。ご存知かと思いますが、この体験記は冊子としてまとめられ、「中学受験体験記GET(ゲット)」という呼称で、受験を終えられた家庭や新6年生家庭に無料で届けられています。また、一部は「入会ガイダンス」などの説明会で、受験を視野に入れておられるご家庭にもお配りしています。

  この受験体験記の発行はすでに30年以上続いているのですが、受験生活の実体験が綴られているため、あとに続く受験生の家庭で生じた問題や悩みの解消に役立っているようです。「この冊子を一通りめくっていけば、大概同じ問題や悩みに遭遇した家庭の著述が見つかり、参考にできる」という話をこれまでしばしば耳にしました。

   「この体験記には随分救われました。わが子が成績不振に陥ったとき、親子関係がぎくしゃくしてどう対処したものか悩んだとき、ゲットのおかげで助かりました。だから、次に続く人たちのために私の家庭の体験を書いてみようと思いました」――そんな言葉をいただくと、もはや「GET(ゲット)」は弊社の財産・文化と言ってもよいほどの存在になっていると感じます。

 さて、今年も体験記の編集に担当者が追われています。筆者も掲載作品の選定にあたり、家庭から寄せられた原稿に目を通しています。筆者は主に保護者の作品に関わっているのですが、一つひとつの作品を拝見するうちに、各家庭それぞれに入試終了までには様々なドラマがあったのだと、改めてしみじみとした思いに駆られました。

 子どもが受験を乗り切るまで、何の不安もなく、親が安心して見ていられるような家庭はまず一つもないと言ってよいでしょう。小学生の子どもは先のことに対して楽天的で、早くから自分を追い込んだ勉強はできないものです。

  そこで大概は親が先に焦りだし、いろいろアドバイスをするのですが、すぐに効果が現れることは希です。むしろ、伝えたことを聞いているのかいないのかわからなかったり、思いがけない反抗にあったりして、親のほうが感情的に叱ってしまうような結果に至ることが多いものです。無論親のほうでも、「それではいけない」と思い直し、再び工夫を試みながら子どものやる気や実行力が高まるよう働きかけることになります。その繰り返しが受験生活なのですね。

 今からお子さんが受験をされるご家庭は、同じような親ならではの体験をされることでしょう。一言でいえば、わが子の中学受験は親にとっては忍耐や我慢、辛抱の連続であり、「自分が受験するほうが、精神的にはよほどましだ」と思われるかたが少なくありません。

 しかしながら、そうした体験で親もわが子との絆を深めることができますし、親の期待とは何かを伝えることもできます。あとで後悔するような叱りかたをしてしまうこともありますが、親の本心はちゃんと子どもに届いているものです。わが子の受験が全て終わったとき、「受験をさせてよかった」ときっと思われることでしょう。

 保護者の体験記に、「受験を通して、親も成長できました」という言葉がよく見られます。これは、偽りのない実感であろうと思います。わが子をいろいろ心配し、気のもめる思いをしながら、様々に助言をしたり、言い聞かせたり、叱ったり・・・。大変なストレスとの闘いを余儀なくされますが、わが子のがんばりを促すプロセスで親だって随分変わるのですね。

 そんなことを思いながら、ふと筆者も愚息の中学受験のころを思い出しました。愚息はとにかく頑固で、能率の悪い勉強を変えようとせず、親が堪りかねてアドバイスしようとするのですが、全く耳を貸してくれません。

  そんな愚息に一計を案じ、「一緒にサイクリングをしよう」ともちかけました。サイクリングコースを走るのは気持ちよく気分転換にもなります。並んで自転車を漕ぎながら話をすれば、素直に親のアドバイスに耳を傾けるだろうと思ったのです。5年生のころのことです。

 ところが、愚息を先に走らせ、後ろから追いついて話しかけようとしたのですが、必死になって逃げてしまうので並んで走ることができません。しかたなく、「私が先に走るから、あとからついてきなさい」と言って先を走ると、今度はずっと後ろを走ったまま追いついてくれません。これには閉口しました。親のたくらみを察知したのでしょうか。

 何度かそういうことを試みたのですが、どれも失敗に終わり、結局筆者は親として何ら手助けをすることもできないまま愚息の中学受験は終わってしまいました。

 ですから、親子で受験を上手に乗り切っておられるご家庭を見ると、「すばらしいな」と感心してしまいます。ただし、自転車に乗ってアドバイスの計略は、思わぬ展開を引き出します。自転車の楽しさを教えたことがきっかけで、中3のころからロードバイクを趣味にするようになり、さらには大学では何と体育会の自転車競技部に入部しました。

 理系で授業も多いので、親としては心配もしましたが、私学での6年間スポーツに打ち込んだ経験がなかった愚息には、「人間を鍛え直すよい場になるかもしれない」と思い、やらせることにしました。親の関わりは何らかの形で子どもに影響するのだと、今さらながら思います。

 わが子の受験勉強を見守り応援する生活は、親にとっては自分が受験勉強をするよりも辛いことかもしれません。しかし、親子共通の目標をもつことでかけがえのない収穫が得られます。今から様々な試練が待ち受けているかもしれませんが、それを乗り越えるために親子で話し合ったり、知恵を絞ったりする体験は貴重なものです。

  わが子の中学受験を通して、親も成長していこう。そのことを胸に留めて、最後までお子さんを温かく見守り応援してあげてください。

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