しつけの仕上げ期に必要な親の働きかけ ~その1~

7月 8th, 2013

 前回、「ずいぶん前に書いたブログ記事で、いまだに多くのかたに読まれているものがあります」ということをお伝えし、16ほどタイトルをピックアップしてご紹介しました。

 その中の一つに、「しつけという言葉の深い意味」というのがあります。進学塾のブログの記事には似つかわしくないかもしれませんが、「中学受験生をもつ親は、しつけにおいても目配りが必要なのだから、こういう記事もよいかな」と思って載せた記憶があります。

 ところが、この記事を毎日一定数のかたがアーカイブから見つけ出して読んでおられます。内容は、「しつけの本来の意味は、着物の仕付けから来ているのではないか」というものでした。

 仕付け糸は、いよいよ着物ができあがるとはずされます。それと同じように、子どもも自律的な行動ができるようになると、しつけはその役割を終えるのです。しつけは、親が子どもを強制で動かすことではなく、親による強制の必要をなくすためのものなのですね。

 幼児期になると、子どもは自由に歩き回るようになり、言葉で自己主張をするようになります。この年齢期は好奇心に任せて動き回りますから、親から見ると危なっかしくてなりません。親がして欲しくないことばかりやりたがるものです。ですから、親は絶えずしつけの一環として「いけません」「だめよ!」を連発することになります。こういう状態から抜け出し、親の禁止の言葉が不要になるまでにはどんなステップを踏まねばならないのでしょうか。以下の文章は、この点に関する岡本先生の著述を簡略にしたものです(要約が下手な点はお許しください)。

親の「いけません!」に対して、子どもは「自分の要求を放棄して親に従う」か、「あくまでも自分の欲求を押し通す」か、二つの選択肢の狭間に立たされます。しかし、どちらを選んでも子どもの真の成長にはつながりません。

前者は「よい子だ」と周囲にほめられるかわりに、ほんとうの自分をひたすら押さえることになるでしょう。よい子の仮面は、辛い重圧となって自分を苦しめ続けます。いっぽうの後者は、我が儘を通した代償に、親からの罰が待っているかもしれません。また、我が儘を続けていると、親の愛情を失ってしまうことへの恐怖と闘わなければならなくなります。

 いずれにせよ、子どもは心の葛藤を余儀なくされます。しかし、いつまでもこうした状態に留まっていません。やがて、第三の解決法を見つけ出すようになるのです。それは、ひたすら自分の欲求を我慢するのでもなく、親に背いて自分の主張を通そうとすることでもありません。ある程度譲歩しつつも、自分の望みをあきらめないですむ方法です。

 たとえば、買って欲しい文房具があるけれども、高価なので買ってもらえません。しかし、どうしても欲しくてたまりません。そこで、「つぎの誕生日に、プレゼントとして買ってくれないかな?」と、親に交渉します。すると親が承諾してくれました。ただし、誕生日までには4カ月もあります。長い辛抱の末、とうとう手に入れることができました。こういう解決法は、自己の欲求に折り合いをつけるという意味で子どもの成長と言えるでしょう。

 このように、しつけの最中にある子どもは、自分の欲求と行動を調整する方法を少しずつ学び、やがて自律した一人前の人間に成長していきます。

 もちろん、子どもの欲求調整能力、行動調整能力の発達は、親からの意図的な働きかけ(これもしつけですが)によっても促されます。では、具体的にはどんなことが考えられるでしょうか。今回筆者がお伝えしたかったのはそのことです。

 近年、「すぐキレル」など、日本の若者が心のブレーキを失い、「荒れ」ているという指摘が様々な方面から寄せられています。そのことと、日本の親の子育てに何らかの相関関係があるのではないかという推測のもと、学者による大がかりな国際比較調査が行われたことがあります。

 このあとご紹介するのは、その調査に加わった学者の著作に掲載されていた資料の一部です。この資料は「親からの働きかけがどの程度あるか」を日本、アメリカ・トルコでの調査結果で比較したものです。具体的には、「1.親が口出しをする」「2.私に相談する」「3.親は私に我慢を教える」の三項目について、「そうである」と「かなりそうである」と答えた子どもの割合を示したものです。

 調査対象は、中学・高校生です。調査人数は、日本1406人(中706・高700)、アメリカ543人(中240・高303)、トルコ510人(中260・高250)です。また調査年は、2001年です。

 なぜ比較対照がアメリカとトルコかというと、アメリカは第二次大戦後のわが国の近代化のモデルになった国であり、トルコは近代化が進む前の日本に見られた家父長制が色濃く残っている国だからであろうと思われます。

 三つの調査項目は、子どもの自律性を引き出す子育てと深い関係があります。たとえば、子どものことに関心をもち、口出しをすることで、親は子どもにどう振る舞って欲しいかを伝えることができますね。つまり、親が望む行動の基準を伝えるわけです(強制でコントロールするという意味ではありません)。また、子どもに相談するという形で、ある事柄について自分はどうすべきかを考えさせることができます。さらには、「我慢を教える」ことで感情に走らず、自分を抑制する方法を身につけた子どもにすることができるでしょう。ですから、これらの調査で、「そうである」や「かなりそうである」という結果がもたらされれば、日本の親は子どもの自律性の獲得のために積極的に関わっているということになります。

 さて、結果はどうだったでしょう。だいぶ長くなってしまいましたので、続きは次回お伝えします。

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