自然体験・生活体験と文章理解力の関係

7月 29th, 2013

 小学生時代の子どもの時間は、本来はゆっくりと流れているものです。スケジュールに追われることもなく、時間のことを忘れて興味の対象に没頭する。自然とふれあい、ひたすら目の前の景色を眺め続ける。それでも飽きないのが小学生の子どもです。

 しかしながら、中学受験をする子どもたちはいささか違った様相を呈しています。テストが頻繁にあり、そのテストデータとにらめっこしながら勉強に打ち込む日々が続きます。ですから、夏休みだからといってノンビリしていられません。中学受験生は忙しいのです。

 ただし、人生経験の浅い小学生の子どもにとって、身の回りの事物にふれたり、自然を散策したりすることも重要な勉強です。実物を自分の目で見たり、触ったりした体験が豊富な子どもほど、書物に描かれている世界をイメージしやすくなりますし、教科書に書かれていることの意味をしっかりと理解できるのです。そういった点が落とし穴になり、本を読んでも空回りし、勉強しても理解が及ばない子どもが相当数いるように思います。

 活字を読むということは、活字の列から言葉の塊を抽出し、その表す意味を頭の中でイメージしていくことです。そのために欠かせないのは、活字で表現されている事物や状況をイメージするための知識です。

 無論、図鑑や事典で知識を増やすことはできますが、その前に本物、実物を知る体験がなければ、図鑑や事典は期待される役割を十分に果たすことはできません。なぜなら、写真で事物や現象を理解するには、ベースとなる本物体験による知識が不可欠だからです。ですから、受験生活が始まったからと言って、周囲の世界と隔絶した暮らしをし、ひたすら勉強に打ち込んでも十分な成果は得られません。

 こうした問題について、関連の深い著述が教育学者の本にありましたので、ご紹介してみようと思います。なお、若干文を調整させていただいています。

 

 文学作品は、読み手に体験があると豊かで鮮やかなイメージが思い描けて、それを生き生きと蘇生させることができます。しかし、体験がない人に文学作品を読ませると、読んでも、作品の言葉をきっかけに感情が高揚してくるとか、「なるほど」とわかることがあまりありません。「だいたいこういうことじゃないの」と、漠然としたイメージをつくって勝手に「読んで」しまいがちです。

 「文学作品を読むことによって、感情の世界が新たに耕されて、深く納得するとか深く共感するということが、だんだんなくなってきている」と、憂慮している中学校の国語の先生がたがおられます。

 文学などは、言葉によって人間の感情が動くということを前提としながら、新しい言葉を創造しフィードバックしていく作業なのですが、どうもそうした作業に読むほうがきちんとつきあいきれなくなっているように思います。どちらかというと、言葉によって意味の世界をていねいに耕すのではなく、感覚的に、瞬間おもしろければいいという感じの読みを楽しんでいる人が多くなっています。

 人間は、身体が反応するということがなければ、何かがわかるとか、共感するということは無理なのです。筋肉が緊張するとか、精神がちょっと高揚したとか、情動が動くというようなことがなければ、わかったことにはならないのです。( 中略 )

 知識をどのくらい覚えておくかとか、法則をどのくらい理解しておくかというレベルのもっと手前の、自分でもっと確かめたくてしようがないとか、自分で確かめて納得したい、というレベルの問題が実はあるということ、そのレベルの力がある程度育っていないと言葉の意味世界を深く感じとるということが難しいということ。こうしたことが現代の学力問題に潜んでいるということですね。

 

 どうでしょう。自ら体を動かし、未知の事柄に数多くふれたり、「知りたい」という好奇心を満足させたりする体験を豊かにもっていることは、活字の世界から新たな知識を得たり、ものごとを考える力を養ったりするうえでの前提として欠かせないことのようです。

 上記の先生は、「読書をたくさんすれば知的になるかといえば、そう単純ではなくて、本に書かれてかれている中身がリアルにヴィヴィッドにわかる、共感する、場合によっては反発するためには、それと関わるような体験をいっぱいしていて、身体に記憶させておくことが大切です」と述べておられます。

 大人と違って、子どもは人間として生きてきた年数がうんと短いものです。それだけに、個々の生活体験で培った知識の量や質には相当な個人差があります。それが文章を読んで理解する力に多大な影響を及ぼすことになるわけですが、保護者の方々にはそのことを踏まえ、お子さんの生活面への配慮もお願いしたいと思います。

 4、5年生のお子さん、それ以前の年齢のお子さんをおもちの家庭におかれては、これまでのお子さんの生活の様子を踏まえ、豊かな自然体験、生活体験、家庭での親子の会話などの点からもお子さんの成長のありかたを見直していただければ幸いです。

 まだ夏休みはたっぷりと残っています。親子一緒の探索活動などいかがでしょうか。お子さんお目が輝いたなら、それは学習活動にも必ず波及していくことでしょう。

 

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