「今やろうと思っていたのに!」という言い訳の意味

8月 5th, 2013

 やるべき時間が来ているのに、相変わらずテレビにかじりついているわが子にしびれを切らし、「いい加減にテレビを消して勉強しなさい!」と叱ったことはありませんか?

 多くの家庭でありがちなことです。また、テレビに限らず、ゲームやマンガなどでも同じ事態に至るでしょう。それやこれやで、年がら年中お子さんを叱り続け、すっかり疲れ切ったおかあさんはおられませんか?

 おたくではどうでしょう。見かねて親が叱ったとき、お子さんはどんな反応を示しましたか?たいがいの子どもは「ごめんなさい」とは言いません。そればかりか、「今やろうと思っていたのに!」と反撃に出ることも少なくありません。

 親にしてみれば、この言葉は「見え透いた言い訳」です。何しろ、堪忍袋の緒が切れるまで、どれだけ親はイライラを我慢させられたことでしょう。その間、わが子はテレビにずっとかじりついていたのです。「今やろうとしていた」なんて、到底信用できるものではありません。

 しかし、子どもにも言い分はあります。頭ごなしに叱られるのはもうイヤなのです。それに、「今やろうとしていた」というのだって、まるっきりのウソではありません。というのは、小学校の中~高学年なら、テレビを見ながらも、勉強のことがが頭をよぎります。やるべきことがあり、やるべき時間になっていることは子どももわかっているのです。しかし、勉強となると腰が重くなるんですね。

 ではなぜ「今やろうとしていた」と言うのでしょう。子どもはテレビを見ながら、おそらくつぎのような状態で心が揺れているのではないでしょうか。「もう勉強の時間になっているな。そろそろ勉強しなきゃ」「だいぶ時間が過ぎている。でも、せめてこの番組が終わるまでは見ていたい」そんなとき、突然「いい加減にしなさい!」と親に叱られたらどうでしょう。心のなかで葛藤していた子どもは、「今やろうと思ってたのに!」と憤慨するのです。確かに、「そろそろやらなければ」とは思っていたのですから。

 このように、勉強するはずの時間になっても、テレビや遊びにかまけて腰がもちあがらないお子さんが少なくありません。そういうことが度重なるたびに叱っていると、やがて子どもは「今やろうと思ってたのに」という言い訳すらしなくなり、全く言うことを聞かなくなるでしょう。

 既に、お子さんからそういう兆候を感じておられるご家庭はありませんか?この場合、改めるべきはおかあさんではなく、お子さんであるのは間違いありません。しかし、おかあさんがこれ以上同じ調子で叱ってもまずよい方向には向かいません。

 「そんなことだから成績が悪いのよ!」「もう、塾なんかやめたら?」「あなたのために、どんなにお金がかかっているか、わかってるの!?」「こんなんじゃ、受験なんて無理ね!」――こういった言葉をわが子に浴びせたことはありませんか?

 これらは、子どもが嫌がる言葉の代表的な例としてあげたものですが、子どもの反省を引き出す効果は全くありません。それどころか、子どもの自尊心を傷つけ、親への反発心を募らせるだけです。ですから、改めるべきは子どもでも、親の出方を考え直すことから状況を変えていくしかありません。

 既に「万策尽きた」と、途方に暮れているおかあさんはおられませんか。何を試みても効果がない。それは、対策の方向がみな同じだからかもしれません。今からお伝えすることも、大して効果がないかもしれませんが、違った発想からのアプローチ法を見出すうえでヒントになれば幸いです。

 1.「遊び(テレビ)=悪、勉強=善」という発想からのアプローチをやめる。

 4~5年生の子どもは、もう自分の価値観をもっています。テレビは悪、勉強の邪魔、と一方的に制限を加えようとすると、それだけで反発します。「子どもはテレビを見たいのだ」ということを前提に、「勉強と調整しよう」という気持ちを引き出してやることが必要でしょう。「なるほど、この番組はどうしても見たいんだ。じゃ、勉強はいつやったらいいと思う?」など、計画の調整を提案するのもよいかもしれません。「遊びたい」という気持ちを認めてやれば、大概の子どもは「勉強も大切」と思っていますから、勉強を放り出すことはありません。「大切なのはオンオフの切り替えだ」ということを伝え、「勉強の時間は長くなくていいから、集中してやろう!」と優しく励ますのもよいかもしれません。

 2.子どもへの語りかけを「評価」から「承認」に変える。

 「こんなことだから(あなたは)成績が悪いのよ」「(あなたは)いつもそうやって言い訳ばかり」「(おまえ)は、前も同じ失敗をしたよね」「だから(おまえは)ダメなんだ」――こんなふうに、「相手(子ども)を主語にし、親からの評価を告げる話しかたは相手(子ども)の心に響きません。たとえほめたとしても、「評価」のニュアンスがつきまといます。「親に認めてもらえる行動をとらないと、悪い評価を下される」という不安を引き起こす言いかたなのです。

 いっぽう、「あなたが手伝ってくれて、(おかあさんは)助かったよ」「今日のできごとを話してくれて、(おかあさんは)楽しかったよ」など、親が感じたことを伝える話しかたをすれば、子どもは自分や自分の行為を「承認」されたと受け止めます。子どもは自分の存在に自信をもつことができ、行動の自主性につながる のではないでしょうか。親を信頼する気持ちも強まるでしょう。

 前者の言い方かたを「Y0U(ユウ)メッセージ」、後者の言いかたを「I(アイ)メッセージ」と言いますが、誰よりも大切なわが子にこそ、言葉の使いかたが相手に与える影響を踏まえ、子どもをよい方向に導く話しかたを心がけたいものです。今日から、Iメッセージを心がけてみてはいかがでしょうか。

 3.毎日、少しでもよいから親子で楽しい話題に花を咲かせる。

 親が発する言葉が常に説教や小言、愚痴では、子どもは親との会話を避けるようになります。これでは、「親の期待するような人間になろう」「親の期待に添って努力しよう」という気持ちは湧いてきません。毎日、少しの時間でもよいから、夕食後などに説教や指示などとは無縁の楽しい会話の時間を設けてはどうでしょう。その時間は、子どもの体験なども聞いてやるのです。そういう時間を設けると、不思議と子どもは自分のやるべきこと、親が自分に期待していることに思いを馳せ、「つぎは勉強の時間だ」「今日やるべきことを頑張っておこう!」と、気持ちの準備をしていくものです。それがオンオフのスイッチを自然と稼動させ、勉強の時間を有効にする効果を引き出します。小学生は、まだまだ親のほうを向いていますから、親の愛情を感じる時間が毎日少しでもあれば、必ず親の期待に応えようと頑張り始めるものです。

 「子どもが悪ければ叱るまでだ」という発想で押し通すと、子どもの自発性は育ちませんし、親子の信頼関係も崩れてしまいます。子どもが自分のやるべきことを念頭に置き、自発的にやるべきことをやろうとするには、子どもが「親に信頼されている」「親が認めてくれている」という気持ちをもっていることが前提です。この年齢の子どもの行動は、まだまだ親次第なのです。

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