難しい本より、わかる本や共感できる本

8月 12th, 2013

 前々回は、実体験と読書力のつながりについて書きました。今回も引き続き、子どもの読書に関する話題をお届けしようと思います。ただし、高いレベルの読書力を身につけるための話ではなく、まだお子さんの読書が定着していない家庭で生じがちな問題にスポットを当ててみました。

 子どもの読書がなかなか定着しない理由として、どんなことが考えられるでしょうか。本を読むこと自体を好まないケースもあるでしょうし、読みたい本が見つからない(わからない)ケースもあるでしょう。そういうお子さんの場合、まずは読書の楽しさを体験させることが先決であろうと思います。(※このほか、子どもが本を読みたがらない理由の一つに、スムーズな黙読の態勢を築き損ねたということも考えられます。こういう子どもは活字を読むのが苦痛なため、読書を敬遠しがちです)。

無題

 ところがいざ本選びをする際、親はどちらかというと評価の定まった本、親から見て好ましい内容の本を読ませたいと思い、子どもに働きかけることが多いようです。しかし、そういう本を子どもが受け入れてくれればよいのですが、子どもの現実にマッチしていないため、子どもが嫌がるなどうまくいかないケースが少なくありません。

 たとえば、あるお子さんは、「うちのおかあさんは、小さい字がいっぱい詰まった絵の少ない本ばかり買ってくる」と、不満げに話していました。いっぽう、あるおかあさんは、「うちの子は、いつまでも幼稚な本や挿し絵の多い本ばかり読みたがって困ります。そんな本、いつまでも読んでも読解力はろくに身につきませんよね」とおっしゃっていました。子どもの見解と親の見解が見事に対立しています。

 さて、どうしたものでしょう。読書心理学を専門とする大学の先生の書かれた本に、参考になる記述がありましたのでご紹介してみましょう。

 子どもにとっては読むのがやさしい本は卒業というのではなく、一見やさしい本だからこそ、理解するのに精一杯という状況ではなく、深く味わって意味を考えることができます。また読みの苦手な子どもにとっては、読みやすい本を読み通す経験を積むことは、本を読む楽しさを知り、また自分で読めるという有能感を育てることにもなります

 一般に「~歳向け、~年生向け」という時には、本に使用されている漢字とルビのふり方や文の長さ、当該学年の子どもの生活経験や知識という観点から、対象読者年齢がめやすとして記載されています。しかし、読書に関しては、同じ学年でも、それまでの読書経験や好みによって、その子にはどのような本が最適かはかなり異なっています。読書経験を多く積んでいる子どもであれば、多少難解な本もきっとおもしろくなるはずという期待をもって読み通すことができますが、読書経験の少ない子では、こうした期待をもつことは難しいといえます。したがって、年齢は一つの目安にはなっても、その子どもの興味に適した本、読みたいと思った本こそが、その子にとって意味のあるよい本であるといえます。

 だいぶ前になりますが、「うちの子は、同じ本ばかりしつこく読み続けるので困ります」という相談を、保護者のかたから受けたことがあります。もはやどのような返事をしたか覚えていませんが、上述の内容から判断すると、その本が子どもにとってふさわしい本だからこそ、繰り返して読みたくなったのですね。おそらくそのお子さんは、繰り返し読んでいくにつれて深く読み味わえるようになり、そこに描かれている世界を満喫することでその本を卒業したことでしょう。

 ここでみなさんに注目していただきたいのは、「一見やさしい本だからこそ、深く味わって意味を考えることができる」という記述です。難しい内容の本ではこうはいきません。親から見て易しすぎるからといって取り上げるべきではないのです。子どもは十分にその本を堪能したら、自然と別の本に手を伸ばします。それを繰り返すことで、子どもは読み手としてのレベルを着実に上げていくことでしょう。

 また、自分で読んで理解できる内容の本を読むのでなければ楽しくありません。自分で理解できるレベルの本を読み通す。それでなければ子どもは本の描く世界に入っていくことはできませんし、主人公と一体化して追体験をするなどということは不可能です。そういう体験こそが読書の楽しさであり醍醐味ですから、背伸びをした読書よりも何倍も子どもの心の成長にも寄与することでしょう。

 さらには、一冊の本を最後まで読み通せたということは、子どもにとっては大きな自信にもなります。それがつぎの読書活動への意欲につながるのは想像に難くありません。これも、易しい本を読むことによってもたらされる恩恵の一つなんですね。

 以上から、「その子の興味に適した本、読みたいと思った本こそが、その子にとって意味のあるよい本」なのだという結論が導き出せるでしょう。みなさん、納得されたでしょうか。「うちの子は、読み応えのある本がいまだに読めない」と嘆く必要はありません。それよりもどんな本でもよいから読んで楽しむ体験を積み重ねることを大切にしてあげてください。

 

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