子どもの“やる気”欠乏症候群を憂う

8月 19th, 2013

  ときどき、ブログに訪問されるかたの検索キーワードをチェックすることがあります。このブログへのニーズを知っておきたいという思いがいくらかあるからです。

 そのとき、必ず目にするのが「やる気(意欲)」という言葉です。それらの大半は、「やる気+ない」の組み合わせですから、お子さんのやる気喪失への対策法を探しておられるのでしょう。1件や2件なら驚かないのですが、類似の言葉も含めると大概二桁に及びます。二十を越えていたこともあります。これにはいささかショックを受けてしまいました。

 このことから推し量れるのは、子どもをもつ親のうち、かなりの数にのぼる人たちがわが子の学習意欲が低いことを心配し、「何とかできないものか」と悩んでおられるのではないかということです。日本の子どもたちに、「やる気欠乏症候群」のようなものが蔓延しているのでしょうか。

 著名な学習心理学者の書物に目を通していると、「今は『内発的学習意欲』も『外発的学習意欲』も利かない時代だ」という件(くだり)がありました。つまり、押しても引いても子どものやる気が高まりにくい時代のようです。どうしてこのような事態に至ったのでしょうか。

 何十年か前には、子どもを否応なく勉強へ駆り立てる強い力(社会的背景)が働いていたと言われます。「欲しいものを買える豊かな生活をしたい」「おいしいものを腹一杯食べられるようになりたい」という本能に近い欲求が、子どもの背中を押したのです。勉強して学を身につけることで、しっかりした職を得る。そうすれば生活や食の欲求が満たされるからです。

 しかしながら時代は大きく変わりました。子どもたちは衣・食・住に何の不自由もありません。勉強してよい学校に進学したいという意識も希薄です。厄介なことに、苦労して一流の大学に入っても、後の生活が保障されるわけではないということも、今の子どもたちはよく知っています。

 その一方で、様々なその場しのぎの快楽を提供するメディアが子どもを虜にし、さらには趣向を凝らした楽しげなゲームもしきりに誘惑してきます。先日の新聞報道によると、日本の中学・高校生の52万人がインターネット依存症の傾向を示しているとか。もはや子どもは消費社会に取り込まれ、子ども相手のビジネスを支える重要な“お客様”になっているのです。

 あるとき、一流とされる新聞の経済面に「子どもの○○離れを阻止せよ!」という見出しが踊っているのが目に留まりました。何だろうと思って注意を向けると、ゲーム産業に参入している某大企業のキャンペーンを紹介する記事でした。つまり、○○の部分は「ゲーム」だったというわけです。筆者は内心、「ゲーム離れ、大いに結構なことじゃないか!」と憤慨したものでした。

 さて、もとの話に戻ります。子どもの「やる気」の低下に歯止めをかけるよい方法はないのでしょうか。「やる気」や「学習意欲」は、心理学においては「モチベーション」と言われるようです。モチベーションの代表的なものは、前述の「内発的動機」と「外発的動機」です。

 先ほど、「『内発的意欲』も『外発的意欲』も利かなくなった」という学者の言葉を紹介しましたが、その著述部分をご紹介してみましょう(簡略にしています)。

 楽しい授業をすれば子どもたちはついてきてくれるかというと、なかなか子どもたちはついてきてくれない。それは、一つには世の中にもっと楽しいことがたくさんあるからだと思います。興味・関心を尊重すると言っていたら、とても学校の教科の学習にならないのです。(中略)もっと生活のなかにある楽しいことに流れてしまいます。そういうものがたくさん供給されるし、それらを手にするだけの経済力を子どもが持っています。すると、純粋な内発的動機づけだけから学校の勉強に向かわせるのはどうもむずかしいということになります。

 では、「外発的にやればどうか」といっても、これも「いい成績をとったらおこづかいを増やしてあげる」などと言われなくても、もうおこづかいは結構もらっている。大人は不況、不景気などと言っていますが、子どものほうは実に豊かな暮らしをしていて、物質的な報酬で釣って子どもを勉強させようとしてもなかなか動きません。(中略)そもそも、子どもの間で勉強ができるということの価値が低くなって、競争心をあおってもあまり効果がありません。親や教師が外からコントロールすることが、非常にしにくくなっているのです。

 何もかも満たされた豊かな時代においては、子どもを勉強に向かわせる社会的背景が脆弱なのは否めません。勉強するより楽しいことがふんだんにある時代においては、勉強のおもしろさを教えるのはなかなかに困難なことです。まして、ただ「勉強しなさい」では子どもはなびいてくれません。そういうことを前提にして、子どもの学びの活性化に向けた働きかけを大人がしなければならないことを改めて痛感します。

 ただし、悲観するには及びません。少なくとも、わが子の望ましい成長を願い、学を身につけさせようと手を尽くしておられるご家庭のお子さんは、楽しく学べないまでも、学びの大切さは十分にわかっています。問題は、「勉強したけど塾でよい成績がとれない」「このままでは、受験で合格できそうもない」といったような状況が、子どもの無力感や自信の喪失につながり、それが勉強の活力を失わせていくような悪循環が生じている場合です。そうなっていたなら、叱ったりハッパをかけたりする方法は、逆効果を招くだけです。

 子どもが勉強を嫌がりだしたら、もうワンパターンの叱責や励ましは効果ゼロ。受験での悲観的な見通しを種に脅しても、事態は悪くなりこそすれ改善は見込めません。

 お気づきかもしれませんが、このブログでいちばんたくさん書いている記事は、「子どものやる気」と「親の対処のありかた」を扱ったものです。そのうちの多くは、「親子の信頼関係」を築くこと、「親の愛情と期待」を上手に子どもに伝えることへの提案です。これらは、小学生の勉強に向き合う気持ちを引き出すうえで最も効果があり、また親として必要な対処であろうと思うからです。

 残念ながら、いまだに「これは絶対に効果があります」と自信をもって言える記事は書けていません。しかし、今後もあきらめずに書き続けようと思っています。

 それにしても、内発も外発もうまくいかないご時世にあって、勉強に熱心に取り組む子どもを育てておられる保護者が弊社の会員にはたくさんおられます。ほんとうにすばらしいですね。うまく行かないで悩んでいる保護者の方々もあきらめるには及びません。親の愛情や期待を上手に伝えることから、巻き直していったらどうでしょう。子どもに勉強をさし向けるのは、子どもの幸せを願ってのことなんですから。

 

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