「授業」と「家庭勉強」を連動させる

9月 2nd, 2013

 9月が到来し、弊社の教室では「後期」の授業が始まろうとしています。そこで今回は、子どもたちの学習について書いてみました。

 以前、「家庭勉強の役割」についてお伝えしたことがあります。家庭勉強を「宿題」のように捉え、「やらされるもの」と、受け身の気持ちで取り組んだのでは活性化しません。学校や塾の授業を受けた後、わかったところとわからないでいることを仕分けし、理解を一層深めたり、一段レベルアップしたりするための勉強を家庭で自発的に行う。それが「家庭勉強」なのだということをお伝えしました。

 同じ勉強するのでも、「宿題」と思うか、「自発的学習」とみなすかでは気構えが違ってきます。僅かな期間にも、成果の差がはっきりと現れるものです。

 この家庭勉強の道標(みちしるべ)となるのが「授業」です。弊社で実施する「授業」は「講義形式」で、一般に学校で行われている授業と同じような手法を採ります。つまり、先生がその日に扱う単元の導入をし、それからその単元の学習テーマを代表する課題を採りあげ、子どもたちに発問を仕掛けながら考えさせ、発表をさせたりしながら徐々に重要な知識や理論の核心に迫っていきます。

 進学塾の授業というと、入試での出題傾向に沿った問題の解法説明をし、「ここが重要だ。絶対に覚えておけよ!」「こういう問題がよく出る。絶対に落としちゃだめだぞ!」などと情熱的に子どもたちを引っ張っていくような授業を連想されたかもしれません。しかし、弊社ではそういった指導は入試直前にでもならない限り、どの担当者もしていないと思います。

 弊社の授業(4・5年部)は、「子ども自身に考えかたの道筋を案内し、最も重要な知識や理論について、できるだけ子ども自身が考えて理解するよう導く」ということを基本的方針として定めているからです。学習対象のいちばん大切な部分に、自分で考えて到達(発見)するか、先生から教えられるかでは、学びの喜びが違ってきますし、記憶にも少なからぬ影響があるのではないでしょうか。

 無論、授業時間を全て上記のような指導に充てているわけではありません。単元の重要な原則についてみんなで考え、一応の理解に達したら、残りの時間は例題や練習問題を扱い、代表的な問題を通して理解を徹底させます。ただし、授業時間は1教科1時間足らずですから、たくさんの問題を扱うことはできません。

 そこで重要になるのが、家庭でテキストの残りの問題に自発的に取り組む勉強をすることです。授業でどこまでわかったか、取り組んだかを踏まえ、テキストの問題に挑戦します。その家庭勉強において、授業を通して学んだ知識や理論が活かせるよう願って担当者は指導しています。

 もしも、テキストの基本的な問題がわからないような場合には、授業で学んだ箇所にもう一度立ち返ることが必要です。わからない部分に出合ったら、常に出発点(基礎の基礎)に戻って勉強し直すのがいちばんだからです。

 ところで、テキストの問題は全部できないといけないのでしょうか。それが可能なら素晴らしいです。しかし、受験用テキストですから相応の分量はありますし、課題の難易度幅も相当あります。全ての問題をやりこなせるお子さんはごく僅か。わからない問題があって当然です。入試を迎えるまでに、同じ単元を何回も扱うよう弊社のカリキュラムは構成されています。そうやって、少しずつ学力を仕上げていけばよいのです。そのとき、そのときの学習で、一歩ずつレベルアップしていけば、やがては入試突破は射程距離に入ってくるものです。ですから、4・5年生においては、お子さんの今の学力状態を考慮し、「その時点でできるところまででよい」と割り切ることが大切です。

 また、家庭で過ごす時間の大半を受験勉強に充てるのは無理な注文です。学習計画で割り当てた時間内で、精一杯努力すればよいのではないでしょうか。「全部できないといけない」と思い込まないことです。「決めた時間の中でがんばればいいのだ」とお子さんを励ましてあげてください。マナビーテストでも、入試本番でも、満点は求められていません。6割、7割の問題が答えられるレベルに到達すればよい(入試に合格できる)のですから。

 また、決めた時間内で集中して勉強する姿勢を培っておくことは、中学以降の学校生活で重要な意味をもちます。中学、高校では、より多様な学問に接することになりますし、交友や部活などでどんどん忙しくなります。今から時間や労力に頼る勉強に染まると苦労するのは必定です。

 さて、先ほど弊社の授業について簡単にご説明しましたが、なかには「たくさんの問題に取り組ませて欲しい」「解き方を教えてすぐ問題に取り組ませたほうが効率的ではないか」と思われるかたもおられるかもしれません。

 しかし、それをやると家庭勉強を自分でできない状態で中学生になってしまいます。また、毎日のように塾に通っていただかねばなりません。必然、受験勉強を全て塾で賄うことになり、授業時間も長くなってしまいます。また、こうした訓練型の勉強で身につけたことは、一定期間を経過すると記憶から消え去ってしまうことが多いものです(後述します)。

 弊社のような授業のしかたは、一見効率的でなく、まどろっこしく感じられるかもしれません。しかし、実は脳の記憶の仕組みからも有効な方法なのです。

 一般に、子どもたちが学習によって獲得した知識は、「意味記憶」として脳に蓄えられます。この意味記憶は長期記憶の一種ですが、内容によってはなかなか脳に定着しにくく、しかも何らかのきっかけがないと記憶から取り出せないことが多いのが特徴です。この意味記憶を脳に定着させる方法として有効なのが、「エピソード記憶」と一緒に情報を海馬(体験や学習で得た情報を長期記憶に加工する脳内器官)に送ることです。エピソード記憶とは、体験に基づく記憶で、これも長期記憶の一種です。エピソード記憶は意味記憶よりも定着しやすく、また想起(記憶から取り出す)し易いのが特徴です。

 たとえば、授業である事柄を学習するときに、先生がおもしろい例え話をしてくれたとします。そういうことと一緒に覚えたことは、記憶としてよく残ります。また、誰かがユニーク質問をして教室が湧いたりすることがよくありますが、そういうときに学んでいたことは妙に覚えているものです。それは、意味記憶が単体ではなく、エピソードと一緒に脳に格納されるからです。

 授業の上手な先生は、具体的事例を示したりおもしろい話をしたりして、子どもの学習課題に対する興味を引き出すとともに、そういう事例や話とセットで学習事項を記憶として子どもの脳に刻みつけているのだと言えるでしょう。

 授業は、大げさに言えば約1時間の物語(エピソード)です。暗記や訓練で知識を頭に入れる方法は、なかなか物語にはなりにくく、たくさん問題にあたった割に記憶に残らないものです。一方、授業での様々なやりとりを通して学んだことは、意味記憶とエピソード記憶が合体しているので、頭に残りやすいと言えるでしょう。

 ですから、単元の大切な柱となる理屈を、導入段階から先生がいろいろ工夫して物語として子どもたちに学ばせる方法は、土台となる知識を定着させるうえでとても大切な働きをしているのだと言えるでしょう。原理原則をエピソードと一緒に学び、それを起点にして家庭で類題などに取り組めば、より身につき易いのではないでしょうか。

 子どもたちが、先生やクラスの仲間と一体となった楽しい授業を通して、大切な基礎をしっかりと身につける。そうしたことが毎回の授業で実践できれば、自ずと家庭勉強との連動もうまく行くでしょう。そういう流れを意図して行っているのが、弊社の中学受験指導です。

 

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