ほめられて“やる気”がしぼむケースもあるの?

9月 30th, 2013

 前々回の記事の終わりに、「ほめられることで、却ってモチベーションが下がることがある」というようなことを書いたと思います。今回はそれを話題に採り上げてみました。「何で、ほめてやる気が下がるんだろう?」と不思議に思われたでしょうか。実は、以前このブログでそのことについて書いたことがあります。今回は、心理学の専門家の著作にもっと詳しい説明が載っていましたので、それをご紹介してみましょう。

 ほめることがかえって逆効果をもたらす原因として、次の4つが考えられるそうです。

1.ほめられることで、「次もうまくやらなければ」というプレッシャーが生じる。

 私の授業を受講している大学生に、「ほめることの影響」についてレポートを書いてもらったところ、「一度ほめられると、次にほめられなくなるのではないかと怖くなる」と述べている学生が少なからずいた。ある心理学者は、「称賛は是認への依存心を強める。ほめすぎると、不安定な精神状態を引き起こす。それは周囲の期待に添えないのではないかと恐れを感じるからである」と述べている。

2.ほめられると、失敗する危険を冒さないために難しい課題を避けるようになる。

 能力をほめられると、自分の能力をどう伸ばすかということよりも、自分がいかに失敗しないようにするかという、パフォーマンスの結果ばかりに目が向くようになっていく。実験によると、「頭がよい」とほめられた子どもは、難しいパズルに挑戦させてその結果を伝え、あとで仲間の前で報告させると、約40%が成績を偽って実際よりも高く発表した(他のグループは約10%)そうである。

3.能力をほめられると、結果の良し悪しを「能力」を規準にして考えるようになる。

 「能力が高い」というほめかたをされた子どもは、ひとたび失敗を経験すると、努力が足りなかったと考えるより、自分の能力のせいだと考えてしまう傾向がある。人は失敗の原因を自分の能力不足に求めると、モチベーションを失いやすい。能力は、自分ではどうすることもできないコントロール不可能な要因だからだ。

4.安易にほめられると、「自分は能力がないと思われている」と解釈する子どももいる。

 それほど難しくない課題をやってほめられると、「いつもはあまり能力が高くないと思われているのだな」「自分はもともとうまくできないので、今回はほめてくれているのだな」と、うがった見方をすることもあるだろう。ほめ言葉を自分の能力の低さのためと考えてしまうのである。その結果、難しいことをやり遂げることへの期待感が弱まり、次へのがんばりや集中力を低める恐れも生じる。

 

 上記の指摘をもとに考えると、「ほめさえすればよいわけではない」と言えそうです。大事なのは、「どうほめるか」ということなんですね。

 弊社は中学受験専門の学習塾です。2週間に一回の割合でマナビーテストと呼ばれる単元テストを実施しています。子どもなりに努力して備えたテストの結果がよくないことが続くと、どうしても自分の能力への懐疑心が湧いてしまいます。

 そういう経験を何度も繰り返した子どもに、「この間のテスト結果、よかったじゃないか。この調子でがんばれよ!」と励ますと、「先生、あれはまぐれですよ」「どうせ次はいつも通り成績は落ちますから」などと切り返され、戸惑ったことがあります。残念なテスト結果を突きつけられているうちに、有能感をなし崩し的に失ってしまったのでしょうか。

 さて、不用意なほめかたは却って逆効果を招くとすると、どのような点に留意して子どもをほめればよいのでしょうか。さきほどの、「ほめることがマイナス効果をもたらす例」を書いておられた、大学の先生の著述をもとに、少しだけ筆者の見解を添えてお伝えしてみようと思います。

 まず、子どもにもプライドがありますから、「これは、ほめるに値することか」ということを吟味する必要があるでしょう。前述の先生は、「ほめるに値する具体的な行為に対してほめ、自分が心から正直にそう思っているのだということがきちんと伝わるように誠実にほめる必要がある。こちらの反応が本物であるときには、相手は少なくとも、こちらのほめる動機がコントロールをねらったものではないことを感じとるであろう」と述べておられます。

 また、これは以前ブログに書いたことですが、相手の人格に関わるような点を指摘してほめるのではなく、相手の行為自体、もしくは行為がもたらした結果をほめることが必要です。「優秀な子」「自慢の子」「素晴らしい才能をもった人」「正直者」などのほめかたは望ましくありません。

 その理由ですが、たとえば「正直者」とほめられた子どもが、いつもは「自分は正直でない」と思っていたならどうでしょう。「正直者」と言われると、却って反発してしまうのではないでしょうか。

 専門家によると、パズルなどの課題を終えたあと、「あなたはほんとうに素晴らしいね」と、全体的な人間像をほめられた子どもは、「一生懸命取り組んでいたね」と、取り組みをほめられた子どもと比べて、失敗に対してネガティブな受け止めかたをし、その課題に取り組む意欲を失ったり、無気力になったりし易いそうです。

 もう一つ大切なことがあります。子どもの努力をつかまえてほめるということです。ある実験では、「頭がよい」というほめられかたをした子どもより、「こんなによい点をとれたのは、一生懸命頑張ったからだね」と、努力を指摘してほめられた子どものほうが、以後の行動において難しい課題に率先して取り組む傾向が強かったと報告されています。

 最後になりますが、ほめ言葉には有能さや必要な情報(例:できばえ)を提供する「フィードバック的側面」と、人を操作する「コントロール的側面」の両面があるそうです。後者は少しわかりにくいかもしれません。ほめることで、自分の望むようになってくれる、自分への好意を抱いてくれるという要素が含まれている場合です。つまり、相手よりも自分のほうの都合でほめているわけです。

 大人は、子どもをほめ言葉でコントロールしようとしがちです。親の望むような行動を子どもがとったら大いにほめ、望ましくない行動をとったら叱る。こうした大人の意図を、子どもが感じとったならどうでしょう。おそらくやる気を低下させてしまうのではないでしょうか。

 一方、どれぐらいできたかを具体的に伝えてほめる(フィードバック的側面からほめる)と、子どもは「自分の行動の原因は自分にある」と知覚するようになると言われます。その結果、有能感や自己決定が高まり、ゆえにモチベーションが高まることになります。

 以上の4つについて、お子さんをおもちのかたに反省する点はなかったでしょうか。とかく大人は子どもの気持ちや立場になって考えることをせず、手っ取り早く大人からの一方通行の言葉かけ(安易なほめ言葉)で子どもを変えようとしがちです。しかし、それでは効果が薄く、それどころか逆効果を招くことになりがちです。

 わが子が思うようにがんばってくれない。――そんな悩みをもっておられるおとうさんやおかあさんは、上記の4つを踏まえ、お子さんへの対応やアプローチのしかたを考え直してみてはいかがでしょうか。

 

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