入試を直前に控えたご家庭へ

1月 9th, 2014

 中学入試が目の前に迫ってきました。受験生をおもちのご家庭では、わが子が最高の状態で入試本番に臨めるようにと、いろいろ心を砕いておられることでしょう。

 すでに12月の「保護者説明会」(最終回)でお伝えしているように、入試が眼前に迫った段階ではもはや新しい問題にあれこれと手をつけないほうが賢明です。入試対策には、「これで万全」ということなどありません。新しいことがらに手をつけると、却って不安が助長され、自信を失うことになりかねません。

 ですから、今までやってきたことを軽くおさらいする程度の勉強でよいのではないでしょうか。たとえば、副教材などを使って、「よしOK!これもOK!」といった調子で1問1問チェックしていけば気持ちも落ち着き、平常心のまま入試に臨めるでしょう。

 入試を目の前にしていちばん重要なこと。それは、健康管理と心の落ち着きです。おとうさんおかあさんにおかれては、いろいろ心配の種は尽きないと思いますが、その心配な点がほんとうにわが子に伝えるべきことかどうかを、よく反芻したうえで判断されますようお願いいたします。

 入試直前になると、女のお子さんは私たち指導担当者によく次のようなことを言います。「先生、私なんかきっと受からないよね」「私、第一志望校ダメかもしれない」――無論、本心ではありません。心のなかでは、「大丈夫だよ。心配なんて要らない」「きみなら絶対受かるよ!」と、安心させて欲しいのです。経験の豊富な担当者は心得たもので、受験生の揺らぐ気持ちをきれいに取り除くような言葉かけをケースに応じてしています。ご安心ください。

 なかには入試直前に成績が落ち込むようなお子さんもいます。たまたま出題された範囲が原因だったり、落ち着かない気持ちがミスにつながったり。それが大概の原因です。

 そういう場合、男の子は檄を飛ばして闘志を奮い立たせる方法もあるでしょうが、おかあさんと女のお子さんの場合、一緒に落ち込むケースもよくあります。両者の距離があまりに近いので、ついつい本音をぶつけ合ってしまうのでしょう。

 もしもそれに当てはまるようなご家庭があれば、次のようにわが子に伝えるのも一つの方法でしょう。「よかったね。本番前にたっぷりミスや失敗を経験しておいて。これに懲りて、本番で気をつけようね。そうすれば絶対大丈夫よ!」

 いよいよ本番を前にして、何と言ってわが子を励ますか。おとうさんやおかあさんには、そういう仕事も待っているでしょう。「そんな気の利いた励ましの言葉など思いつかない」と思われるかたもおありでしょうか。それはそれでいいのではないでしょうか。思いつきのとってつけたような言葉をかけるより、いつもの調子で明るく会話を続ければいいのです。それで十分お子さんは親の心のなかを察知し、親の胸の内にある万感の思いを汲み取るものです。互いの目を見れば十分。心は一つにつながっているのですから。

 だいぶ昔の話になりますが、入試に臨むわが子への声かけの例として、いまだに忘れられないエピソードがあります。かつて朝日新聞の論説委員をされていたO氏の著作に紹介されていた話です。それは、大学時代以来の親友であるH氏(「暮らしの手帖」の創刊者の一人)のおとうさんが、息子のH氏に語りかけた言葉です。内容は、次のようなものでした。

 「ハレモノにさわるような」ということばがある。受験生をかかえている家庭は、まさにそれである。灰色の雲が、いつもその家庭にたれこめている。だが、どの家庭でも、(しかし、何年も続くことはない。あの子の将来を思えば・・・)と耐えている。

 たしかにその通り。現代社会では人は四つの門をくぐるという。第一は小学校への入学であり、あとの三つは入学試験、結婚、就職である。とくに入学試験では、火花を散らす。人生において、最低一度ぐらいは火花を散らしてみることは大切だと思う。現代社会は、本質的には競争社会なのである。

 受験生は、いつもピーンと神経がはりつめている。それだけに、彼等におくることばには配慮が必要である。

 ジャーナリズムの鬼才といわれ『暮らしの手帖』を創刊した故H氏は旧神戸三中出身である。試験の前日、父親がいった。

 「○○、試験におちたら(・・・・)、自転車を買ってやる」

 うかったら(・・・・・)でもなければ、()()()()でもない。おちたら(・・・・)である。トタンに嬉しくなった。しかし、よく考えてみると、このことばには父親の気持ちは(おちても、入っても、お前はおれの大事な息子だよ)という思いがこめられていることをさとり、幸福感が全身にしみわたった。その安心感で氏は見事にパスした。

 中学受験。それはわが子が人生で初めてぶつかる大きな試練です。しかしながら、このエピソードのように、どんな結果になろうともわが子はわが子。わが子が全力をぶつけてこの関門に挑戦することに大きな意義があります。

 お子さんが全力を出し切って晴れやかな表情で家に帰ってくるまで、今しばらく気の揉める日が続きますが、最後まで親の深い愛情でお子さんの背中を押してあげてください。

 なお、普段通りのリラックスした状態で受験に臨むには、受験生活をともに送った仲間と話をするのがいちばんです。入試日に会場に着いたなら、受験の手はずや教室の場所を確認したら、あとはお子さんが仲間と話をする機会を与えてあげてください(お子さんは、友だちを見つけたらすぐに集まり始めるものです)。緊張した表情は、見る見る元どおりになるでしょう。

 20140109また、弊社の指導担当者もできる限り入試会場へ出向いて声かけをいたします。毎年どの担当者も、「一人残らず見つけて声かけを!」と、子どもたちを探し回っています。どうぞご安心ください。

 入試本番で、全ての受験生が全力を尽くされますことを心よりお祈り申し上げます。

Posted in がんばる子どもたち, 中学受験, 家庭での教育

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