国語学習からみた4年部1年間の意義
1月 20th, 2014
先週は、4年部で扱う算数学習の意義についてお伝えしました。4年部での学習指導は算数と国語の2教科です。そこで、今回は国語の学習についてもお伝えしてみようと思います。
4年生ぐらいになると、これまで主として具体的な事物や事象を表す言葉を用いてやりとりしていた子どもたちが、しだいに抽象的な意味をもった言葉を理解し、使えるようになっていきます。それに伴って、言葉の使用状況や読書の内容が急速に変わってくることも珍しくありません。
こうした変化は、子どもの思考様式を一気に大人の域へと近づけていくことになります。たとえば、一般論に当てはまる具体的な事例を自らの経験に基づいて示したり、逆にいくつかの具体的事項の根底にある共通性を見抜き、一括りの言葉で表現したりできるようになります。つまり、具体から抽象へ、抽象から具体へといった高度な思考のアクセスが可能となってくるのです。
こうした子どもの変化は、国語の授業をしているときにも十分に感じ取れるものです。筆者が4年部の国語の指導にあたっていたときのできごとをご紹介してみましょう。なお、この事例はすでにこのブログでご紹介した記憶があります。お読みになったかたがおられるかもしれません。ご了承ください。
世界の物語には、「三回繰り返しの法則」と言われる様式をもったものが多数あります。一つの物語が全体として三つの話で構成されているのですが、登場人物やできごとの内容はそれぞれ違うものの、話の根底にあるメッセージは共通で、同じことを三回繰り返す形式を言ったものです。このような物語を読むことで、子どもは先の予測をしながら物語を楽しむことを覚え、さらにできごとの本質を一般化して理解するというより高度な思考へと導かれていくのです。
ある年、4年生の国語の授業をしたときのことです。この「三回繰り返しの法則」がはっきりと見て取れる物語を子どもたちに読ませる機会がありました。試しに、三つの話の共通性に気づいているかどうか発問をしてみたところ、個々の理解の度合いに随分バラツキがあることがわかりました。
三つのお話の共通性にすぐさま気づき、物語の言わんとするところを理解できるようになった子どもがかなりいました。しかし、まだそれに気づくまでに至っていないお子さんも多くいました。そこで、少しヒントを言ってみました。すると、残りの半分くらいの子どもたちが、三つの話の共通性に気づいてくれました。しかし、それでも気づかないお子さんもまだいるようでした。
おもしろいのは、読みの熟達度がこのように個々で全く違っているのに、子どもたちは一様に「この話は楽しい!大好き!」と反応することです。よいお話は、読みのレベルを超え、読み手に何らかの知的喜びを提供してくれるものなのですね。そこに読書の大きな価値を思わずにはいられません。
さて、今ご紹介した話は、子どもの知的発達の節目が4年生という段階にあることを意味するでしょう。国語の読解力を試す中学入試問題には、具体的事例を一般化して述べたり、一般論に適合する具体的事例をつかみだしたりするものがたくさんあります。したがって、これから次第に本格化していく中学受験対策にうまく対応していけるかどうかは、言葉の抽象性を獲得していくこの流れにうまく乗れるかどうかにかかっているのだと言えるでしょう。
4年部での1年間においては、「読書指導」を重要視するとともに、お話の根底にあるおもしろさやメッセージ性に気づくなど、これまでよりも一段深い読み取りができるようになることをめざします。こうした学習は、中学受験を突破できる読み取りの能力を養えるだけでなく、子どもたちを活字文化の継承者としてより高いレベルへと到達させてくれるでしょう。ですから、問題解法力の育成指導を始める前段階の学習として、とても重要なものだと弊社では考えています。
早くから問題解法力の育成と称して、「素材文を素早く読んで問いに答える」といったような訓練型の指導をしても、文章の核心に迫る読みや深いレベルで味わう読解力は育ちません。そもそも素材文をもとに出される問題は、文章の大切な内容が読み取れているかどうか、文章の核心がつかめているかどうかを試すために出されるのです。したがって、そうした問題への対応力を育てるには、問題を解く練習をするよりもよい文章を数多く読み味わう経験を積むほうがはるかに効果的だと言えるでしょう。
こうした考えもあって、弊社4年部ではテストにおいても、素材文をしっかり読み通すことをまずもって重要視し、虫食い問題をできるだけ出さないように心がけています。
以上からおわかりいただけると思いますが、4年部では子どもたちに受験をあまり意識させないようにし、「まずは、子どもたちに文章を読み味わうことの楽しさや醍醐味にふれる体験を提供すること」「文章を深く読み味わえるポテンシャルを築くこと」に重きをおいた指導を心がけています。そのほうが学力の到達点は高くなりますし、先々の長い読書生活を充実させるための土台づくりにもなるのではないでしょうか。
なお、既に何度も書いてきたことですが、「活字を読んで、その意味を理解する力」は、すべての教科の学習を支える基本的能力です。その意味において、4年部の1年間の国語指導は、5年部から始まる4教科の受験対策を効果的なものにするための重要な役割を担っています。