言葉遊びを親子で楽しもう!
5月 26th, 2014
以前、家族で言葉遊びを楽しむということを話題にし、子どものころに言葉遊びを楽しんだ作家の著述をご紹介したことがあります。その記事は、数こそ少ないものの今も毎日のようにどなたかが読んでくださっているようです。
最近、自宅の書棚を整理しているとき、言葉遊びの具体例が載っている本が出てきました。再びその本を読み返してみると、みなさんのご家庭でも試してみることのできそうなものが紹介されていました。そこで今回は、もう一度言葉遊びを話題に取り上げてみようと思います。
言葉遊びを子どもは大変喜びます。「あなたは、授業中にそんなことをしていたのか」と、周囲の者が知ったら咎められそうですが、たとえば国語の授業でこんな遊びに興じたことがあります。
「万里(まり)さんという女の人が結婚して姓を変えたら、まずいことになる姓があるぞ。どんなのがあるか考えてみようか」と、子どもたちに問いかけます。で、筆者の用意した回答例は「織田」という姓。「大変なことになるぞ。何か言うたびに、『オダマリ!』と言われてしまうからな」とやります。すると、教室はどっと沸き、たちまち子どもたちは面白いのを考え出して発表してくれます。
今ではほとんど忘れてしまったのですが、こんなやりとりを思い出しました。「先生、水田というのはどうですか!?」筆者がそれを受けて、「なるほど、ミズタマリか!?」と言うと、再び教室中が沸いたものです。今、改めて答えを考えてみましたが、「吹田(ふきだ)」「肥田(ひだ)」「長田(おさだ)」「和高(わだか)」「木津(きづ)」「花津(はなづ)」など、どうでしょうか。
一つ例が挙がると、子どもはすぐさま「別の問題をつくろう」と言い始めます。そうして、傑作駄作が次々に発表されていきます。「なっちゃん(夏さん)が安藤さんと結婚したら、アンドーナツになるよ!」と、ややこじつけの面白い発表をした男の子がいたことを思い出します(このやりとりは十数年以上前にあったのですが、最近、同じような名前の芸能人がおられることを知りました2017)。
言葉遊びは頭のトレーニングになります。なにしろ、手持ちのボキャブラリーを駆使しなければなりません。また、言葉に対する感覚を磨き、言葉の扱いが達者になります。人が集まったとき、ちょっと面白い話をして場を盛り上げてくれる人気者がいますが、言葉遊びに興じた経験をたくさんしている子どもは、そういう人間になれる素質が大でしょう。
さて、本題に入りましょう。言葉遊びで、親子で楽しめそうなものを2、3ご紹介します。いずれも、前述の本からとってきたものです。小学校の中~高学年以上のお子さんなら十分やれますので、家族団らんの時間などにいかがでしょうか。
1.回文
ご存知のように、いわゆる「上から読んでも下から読んでも同じ音になる文」のことです。「新聞紙」や「竹藪やけた」など、大概の人は子どものころに経験済みのことでしょう。この本には、長い回文で有名なものとして、「軽い機敏な子ネコ、何匹いるか(カルイキビンナコネコナンビキイルカ)」「品川に、今住む住居、庭がなし(シナガワニイマスムスマイニワガナシ)」というのが紹介されていました。同じ人の作だそうです。
二つ目の回文は、五・七・五の俳句形式になっています。こういう回文が、室町時代のころから人々に楽しまれてきたそうです。
回文を創作するにあたっては、仮名遣いや清濁の不一致に関してある程度の許容範囲があります。たとえば、「だんごやごんた」は厳密には同じ音にはなりませんが、回文として成立するそうです。
では、本に掲載されていた回文を完成させる問題をご紹介しておきましょう。○は漢字1文字、□はひらがなもしくはカタカナ1文字が入ると回文ができあがります。
① イカ食べ□□□。
② イルカは○□。
③ かつらが○○。
④ 消えた○。
⑤ 鎖切り○□。
⑥ 今朝食べ□○。
⑦ この子、ど□□○。
⑧ 猿(さる)にも○□□。
⑨ 象くんパ□○□□。
⑩ 旅の日○□□。
⑪ 羊羹(ようかん)○□□。
⑫ 三つの○□。
⑬ 皆はお○○。
⑭ 予定書□□□。
⑮ 知らないカラス□□○□○□□。
※⑤⑥⑩⑫⑮は、漢字が書けないようならひらがなで答える形式にしてもよい。
2.アナグラム
言葉を形成する文字の音を並び替えて別の言葉をつくる遊びです。たとえば、「実が付く木」と「靴磨き」は、言葉を成り立たせている文字を音に分解してみると、どちらも同じ音の集まりでできていることがわかります。この遊びは、日本にはもともとなかったそうで、適当な日本語名がありません。しかし、最近では言葉遊びの代表的なものの一つになっているそうです。
テレビのクイズ番組などでも、この類の問題を見たことがおありでしょう。この本では、「『せこい妻だ』を文字の配列を変えると、ある有名な元アイドル歌手の名前になるが、その名前は何か」という問題が紹介されていました。答えは、「松田聖子」(お子さんはご存じない?)です。
ちなみに、「せこい」は「けちくさい」「みみっちい」といったような意味で用いられることが多い言葉で、近年つくられた若者言葉のような響きがありますが、実際には明治のころからすでに使われているかなり古い言葉だそうです。ただし、もとは「悪い」「下手である」というような意味合いで使われていたようです。中年以上の年齢の人なら誰でも知っているあの歌手の名前と、「せこい」という俗でネガティブな意味をもつ言葉のギャップが面白いですね。
歌手の例として、他に「ゴミ拾う」と「郷ひろみ」、「今宵、慈善キス」と「水前寺清子」などが紹介されていました(今の子どもは知らない歌手でしょうね)。二つ目の事例は、面白いとは思うものの、言葉が難しい上に教育的とは言えず、お子さんへの事例紹介には使えないのが残念です。
では、この本で紹介されているアナグラム課題をご紹介してみましょう。次の7つの言葉は、組み替えるといずれも日本人にお馴染みの人物の名前になります。後の語群から選んでください。
① 流行る見込み
② あ、駅売りだな
③ いい草原(くさはら)か
④ 感じる髭
⑤ 錘(おもり)が言う
⑥ 豪快、猛者(もさ)たり
⑦ 尊(とうと)き過去
[選択肢]
A.光源氏 B.森鴎外 C.加藤登紀子 D.上田秋成 E.西郷隆盛 F.都はるみ G.井原西鶴
長くなってしまいました。今回はここまでにしようと思います。アナグラム課題のほうは、今お子さんがたが知っているタレントや歌手の名前を挙げ、それから問題をつくってみるとお子さんが興味をもつのではないかと思います。
受験勉強の合間に、家族でこういう言葉遊びを楽しむとよい息抜きになるでしょうし、頭の体操にもなるでしょう。ときどき、子どもたちが「おかあさんは、叱る言葉、注意する言葉ばかり」といった不満の声をもらすことがあります。毎日を忙しく過ごしている大人は、とかく必要に迫られた言葉ばかり子どもに伝えがちです。親子一緒の言葉遊びは、そんな状況を改善する上でも役立つのではないでしょうか。
※今回の記事は、新潮社新書20「ことば遊びへの招待」をもとに書きました。著者は小野恭靖(みつやす)氏です。
※問題の解答は不要かと思いますが、念のためにお伝えします。
〔回文課題〕①たかい ②軽い ③落下 ④駅 ⑤裂く(さく) ⑥た鮭(たさけ) ⑦この子 ⑧似るさ ⑨ン食うぞ ⑩延びた(のびた) ⑪買うよ ⑫包み ⑬花見 ⑭いてよ ⑮すら飼い慣らし(すらかいならし)
〔アナグラム課題〕①F ②D ③G ④A ⑤B ⑥E ⑦C