子どもの自尊感情と家庭での会話

8月 4th, 2014

 このところ、家庭での会話が子どもの知的能力の発達に及ぼす影響について書いてきました。書きながら、「家庭の会話って、ほんとうに大切なものだな」と、筆者自身今更ながら思わずにはいられませんでした。

 そんなおり、今年出版されたばかりの発達心理学系の本に目を通していると、またまた家庭の会話の重要性を認識させられる著述が目に入りました。今日は、それを話題にしてみようと思います。

 その本は、生涯を通した親子関係について書かれたもので、筆者が注目したのは「児童期の親子関係に関する研究」という章にあった話題です。その話題とは、子どもの自尊感情の国際比較で得られたデータに関するものでした。自尊感情とは、英語でself-esteem(セルフ・エスティーム)と呼ばれる言葉で、他者との比較ではなく、自分自身を価値のある人間であると満足している気持ちを表しています。

 以前このブログで「日本の子どもは自分に自信がもてないでいる」という問題について、国際比較調査の結果をもとに考察したことがありますが、自尊感情が低いということも、ほぼ同じような問題認識に属すると思います。

 グローバリゼーションが進行する今日にあっては、世界中の人々が国と国とをまたいで行き来したり、情報をやり取りしたりすることが当たり前になりつつあります。日本人の自尊感情が低いということは、そうした国際的な交流におけるコミュニケーションや交渉事での障害になりかねず、決して望ましいことではありません。

 実は、この問題への対策として効果があると指摘されていたのが、「家庭の会話」でした。そのことについてご説明する前に、まずは日本の子どもの自尊感情が、諸外国の子どもと比べて著しく低いということを、資料を通じて確認していただこうと思います。

子どもの自尊感情の国際比較

 日本、韓国、ドイツ、スウェーデン、アメリカの18歳~24歳の青少年を対象とした調査(世界青年意識調査)の結果が、平成16年に内閣府によって公表されています。

 この調査によると、「自分を誇れるものをもっていますか」という設問に対して、「誇れるものが何もない」と答えた青年の割合が、日本8.3%、韓国5.1%、ドイツ1.8%、スウェーデン0.7%、アメリカ0.5%でした。

 また2011年に、日本青少年研究所によって複数の国の高校生の意識調査が行われています。調査対象は、日本(1,113名)、アメリカ(1,011名)、中国(1,176名)、韓国(3,933名)の高校生で、そのなかには「私は価値のある人間だ」「自分を肯定的に評価するほうだ」「自分に満足している」「自分が優秀だと思う」など、自尊感情に関わるいくつかの質問が含まれていました。

20140804

 この意識調査の結果ですが、たとえば「私は価値のある人間だと思う」という調査項目に対して、日本の高校生は「全くそうだ」と答えた生徒が7.5%、「まあそうだ」と答えた生徒が28.6%でした。合わせて36.1%が自分を肯定的にとらえていることになります。

 この数値が多いか少ないかの問題ですが、「全くそうだ」「まあそうだ」を合わせた数値で、アメリカが89.1%、中国87.7%、韓国75.1%となっています。やはり、日本の高校生の自尊感情は低いと言わざるを得ません。

 「私は自分を肯定的に評価するほうだ」という調査項目においても、「全くそうだ」と答えた生徒の比率が、日本6.2%、アメリカ41.2%、中国38.0%、韓国18.9%と、やはり日本の高校生の数値が突出して低くなっています。

 筆者自身、いくつかの書物を通じて「日本の子どもは自分に自信がない」「日本の子どもは、自尊感情が低い」などの問題があることは知っていました。最近では、この問題を深刻に受け止め、公の組織が問題の原因を調査したり、対策を研究したりし始めているようです。

 さて、冒頭の話題に戻ろうと思います。今回参考にした書物(後でご紹介します)によると、食生活(食事で楽しい会話をすること)と自尊感情には関連性があるのではないかという調査結果が紹介されていました。

 その調査とは、京都市西京区内の全公立小学校の5年生1,534名、6年生1,531名、中学2年生1,345名に、「食事を楽しいと思うか」「食事の環境や食習慣」「食への関心」などとともに、「自分自身のこと」(例:あなたは自分のことが好きですか)についても尋ねたものです。これらの質問項目に対する子どもたちの回答結果を受け、次のようなコメントが記されていました。

 20140804a(中略)家庭での食事時間が楽しいと感じている子どもは、「自分のことが好きである」と回答する傾向があった。これは自分を肯定的にとらえている子どもは、親との食事を楽しいと評価し、親とも良好なコミュニケーションがとれていることを示唆している。すなわち親子関係が良好で、家庭内に自分の居場所がある家庭環境が、心の安定につながっているのであろう。このことから、毎日繰り返される食事という生活場面の中で展開される親子関係が子どもの自尊感情を育んでいることがわかる。

 これまで、子どもの学習意欲を高めるための方策として、「毎日、少しの時間でもよいから親子の楽しい会話の時間を!」とお伝えしてきましたが、親子で食事をしながら楽しい会話をすることは、親との信頼関係を築き、それが、「自分は親に愛されている」という気持ち、「自分はOKである」という気持ちにもつながるのでしょう。

 自尊感情をスポイルするもの、高めるものに関しては、いろいろなファクターがあるようです。専門家でもない筆者が少し調べた程度では、すっきりとした分析も対策案も提供することは難しいのですが、「毎日、家族で食事をしながら会話の花を咲かせる」ということが、自尊感情を高めるなど、子どもの望ましい成長を引き出すのだということは間違いないようです。20140804b

 毎日、朝食と夕食はできる限り親子そろって楽しい会話を交えながらとりましょう!

※今回の記事は、「親と子の生涯発達心理学 小野寺敦子/著 勁草書房」を参考(一部抜粋)に書きました。

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