男の子は無理にでもやらせないと…
8月 11th, 2014
「放っておくと勉強なんかしません。無理にでもやらせないと…」「先生、うちの子は家では全然やるべきことができません。塾で授業後に残して勉強をやらせてもらえませんか?」「もう、少々のことは構いませんから、叩いてでもやらせてください」「とりあえず合格しなきゃ何も始まりません。押さえつけても勉強させなきゃ」
これは、かつて筆者が中学受験の指導現場に立っていたころ、おとうさんおかあさんから言われた言葉です。タイトルからも、内容からもお察しのように、話題の主はすべて男の子です。みなさんはどう思われるでしょうか。
いったいに、男の子は女の子と比べると落ち着きがなく‟がさつ”です。女の子のようにコツコツまじめに物事に取り組むのが苦手です。自分の興味の対象に対しては素晴らしい集中力や粘りを発揮するいっぽう、気が向かない勉強となると、「好きなことをやるときの、あの集中力や粘りはどこへ行ったのか」と思うほどいい加減です。おとうさんやおかあさんがしびれを切らすのも無理はありません。
ただし、当時は中学受験熱が高くて受験生も今よりもはるかに多かったことを記憶しています。合格を巡る競争の厳しさが、親を焦らせたという面も多分にあるでしょう。
では、なぜこのような話題を取り上げたのかというと、少子化の進行などで中学入試の門は広くなったとは言っても、男の子が継続的な努力の積み重ねを嫌がること、行き当たりばったりのチャランポランな勉強に陥りがちだということには変わりがないからです。今も同じような思いにさらされておられる保護者が相当数おられるであろうことは間違いありません。事実、このブログの検索ワードをときどき参考までにチェックしているのですが、親のイライラが伝わってくるような言葉が多数書き込まれています。
さて、学習塾は冒頭でいくつか挙げた保護者の要請に応えるべく、無理強いしても子どもを鍛えあげて合格に導くべきなのでしょうか。会員のご家庭ならご存知と思いますが、弊社はそういった指導をしないよう心がけています。理由は、子どものためにも親のためにもならないからです。
仮に学習塾が子どもを鍛えて無理やり入試を突破させたとしましょう。そうやって合格した子どもが中学校に入ってから頑張るでしょうか。学力を順調に伸ばしていけるでしょうか。自ら学ぼうという意欲をもたず、自分がすべきことは何かを考える姿勢もなく、自分で段取りをして学ぶ実行力も欠く人間が、レベルの高い私学の学習について行けるでしょうか。
子ども不在の対処療法は、問題を先延ばしにするだけです。それどころか、学習内容の高度化に伴って親がみてやることもできなくなるし、友人との交際や部活などで勉強にますます身が入らなくなるし、思春期になって親の言うことを全く聞かなくなるなど、事態を悪化させる要素ばかり増えていきます。
結局、家庭教師をつけたり、個別指導塾で勉強の面倒を見てもらったりするなど、親の金銭的負担が増えるばかりです。それでも子どもの学業状態が改善するならまだしも、学びの自立性が欠落したままの子どもがよい方向に向かう可能性は極めて低いと言わざるを得ません。
筆者は思います。「たとえ何年生であろうと、子どもの勉強の自立に向けた大人の働きかけをあきらめてはいけない」、と。子どもの物事に取り組む姿勢は、小学生のうちに定まり、以後の年齢になってから変えるのは極めて困難です。小学生の今なら、何年生であっても改善は可能です。もしも、ここまで書いてきたような問題点をわが子に感じておられるなら、程度の問題はありましょうが、今のうちに対策を施すべきです。
「そんなことを言っても、今更変えるのは難しいのでは」と、思われるでしょうか。これは確たる根拠やデータがあるわけではありませんが、人間が自分の変えたい部分を変えるにあたって必要な期間は大体平均して3か月くらいではないかと思います。学習の習慣づけ、音読練習による読みの改善、苦手科目の補強…、これらはいずれも3か月ぐらい一生懸命に取り組めば効果が表れると言われています。あきらめずに繰り返したことは、やがて脳の機能や行動のありかたに変化を引き起こすのです。
受験勉強をしている高学年のお子さんなら、ある程度は自分の今を振り返ることは可能です。親子共々冷静になって、一度じっくりと話し合ってみてはいかがでしょうか。計画通りに勉強を実行できない、机に着いて取り組む時間が短いタイプのお子さんなら、1教科あたりの取り組み時間をうんと短くして、休憩を何度かはさむのもよいかもしれません。急に現状を変えるのは無理ですから、子どもができる範囲から改善を図ればよいのではないでしょうか。
そうして、三日坊主に終わらないよう励ましてやりましょう。成績は取組みの姿勢が安定したら必ずついてくるものです。ですから当面は問題にしないことです。やったら褒め、努力と実行を評価軸にして応援するのです。どんなに優秀でも、「勉強が好きでたまらない」という子どもはいません。「辛いこともあるけれど、気が向かない日もあるけれど、やったらやっただけのことがある」――このような思いを経験しているかどうかの違いです。やらない子どもは、成功体験を味わったことがないからやらないだけなのです。
親の力で子どもをコントロールできる段階は、子どもの中学校入学をもって終わります。中学校に入り、思春期が訪れると、親の影響力は限りなくゼロに近づいていきます。そのときに重要なのは、志望校に受かっていたかどうかではなく、自分で這い上がる術(すべ)を身につけているかどうかです。どの中学校に進学しようと、自ら考え、自ら学ぶ姿勢をいくばくかでも身につけていたなら、その子どもは現実の自分と向き合い、必要な修正を図れるものです。
過保護や過干渉は、今日の親がかかえる共通の問題です。この傾向のない親は珍しいと言えるほどです。だからこそ、受験勉強を例外とするのではなく、受験勉強だからこそ子ども自身にやらせるよう働きかけるべきではないでしょうか。何しろ、受験勉強の期間は長く、子どもは大変な時間とエネルギーを注ぐことを余儀なくされます。子どもの自立のための媒介として、これ以上ふさわしいものはありません。