子どもへの怒りをどうするか
9月 8th, 2014
今回のテーマは、このブログをお読みいただいているような教育熱心なかたには無用かもしれません。「子どもに対して怒りを感じるなんてありえない」と思われるかもしれません。もしそういうかたがおられたなら、今回の記事はパスしていただいて構いません。
ただし、これは筆者の経験ですが、「愛するがゆえに、わが子に対して大きな期待を抱いているがゆえに、子どもの現実を寛容の目で見られない」ということがあるものです。そして、場合によっては思わぬ暴言を子どもに向けてしまうこともあるでしょう。そんなとき、後悔しない親はおそらくいないでしょう。人知れず、凹んでしまった経験をおもちではありませんか?
子どもが思うようにやってくれないとき、親は注意したり叱ったりします。そのとき、すぐに子どもが応じてくれればいいのですが、強い反発を受けることもあります。そんなとき、欧米の親はさらに断固たる姿勢で臨むケースが多いようですが、日本の親がこれをやると親自身がダメージを受けてしまいます。それが嫌で引いてしまうと、今度は子ども自身がブレーキの利かない人間に育ってしまいかねません。これもまた親にとっては辛いものです。
言うことを聞かない子どもに怒りをぶつけるとき、「子どもを木端微塵に粉砕するぐらいの叱りかたをしないとダメだ」と、欧米の親は思っているのかと思いきや、日本の親とそんなに違わないのだということに最近気づかされました。
というのは、図書館で心理学系の本のコーナーで本探しをしていると、結構「怒りのコントロール」に関する本を見かけるのです。そして、そういった本の大半は欧米の研究者や教育関係者が書いたものでした。そこで、試しに1冊借りてみました。今回は、その本に書かれていることで、日本の親に参考になりそうな著述をピックアップしてご紹介してみようと思います。
1.親の怒りは子どもにどんな影響を与えるか
親が子どもを怒鳴りつけて激しい怒りを向けると、子どもの自己意識がゆがめられます。「自分はよい人間ではない」と感じ、おびえるとともに孤独にさいなまれるようになります。ある研究によると、親が子どもを怒鳴りつけ、おどし、殴ることが多ければ多いほど、感情面での支える力が相対的に弱まることがわかりました。親が子どもに対して怒りを示せば示すほど、その子どもは、発達のために必要なあらゆる育みと励ましが受け取れなくなっていくのです。
2.親の怒りや攻撃性と子どもの共感能力の関係
よく怒り子どもに罰を与える母親の子どもは、あまり怒りを爆発させない母親の子どもと比べて、怒りっぽく、反抗的で、言うことを聞かない傾向にあることがわかりました。また、頻繁に母親に怒られている幼児は、誰かが悲しんでいるのを見かけたときにも、共感的な反応を示さないことが多い、という観察もされています。
子どもがやさしくなるためには、まず、子ども自身がやさしく扱われなければなりません。ほかの人に思いやりをもたせようと思えば、その子どもの感情とニーズに対して、大人の側も思いやりをもって接してあげなければならないのです。
3.親の怒りと子どもの問題適応能力
親と子が意見の違いで怒りをぶつけあうことと、思春期の子どもの適応の程度についての研究結果が報告されています。テレビの見方や宿題といった44種類の特定の問題について、親と子で意見が違ったときについて調査し、母親、父親、思春期の子どもたちに、そのつどどれ程怒りを感じたかを自己評価してもらいました。それから、子どもの適応について、学校での成績、対人的能力、行動化、抑うつ感、GPA(学業平均値)などのカテゴリーで測定しました。
結果は、これらのカテゴリーのすべてにおいて、親子が互いに怒りをぶつけあう口論が多ければ多いほど、適応レベルが低くなることがわかりました。さらに、同じ問題について、冷静に話し合った回数が多ければ多いほど、それぞれのカテゴリーにおける適応レベルが高くなっていました。
いかがでしょう。これらの研究の結果は、子育て中の日本の親にも十分に参考になるのではないでしょうか。子どもに激しい怒りを覚えるようなことはないにしても、ついかっとなる場面は少なくありません。しかし、感情をあらわにして子どもとやり合うことは、子どもを健全な心のもち主に育てるうえで大きな妨げになるのです。
さて、子どもに怒りをぶつける親がいる一方、そうした親子の軋轢をうまく回避している親もいます。何か心のコントロールのコツがあるのでしょうか。ある研究によると、「子どもに対して怒りを感じることが少ない親は、よく怒る親に比べて、対処思考をより頻繁に使う傾向があることがわかったそうです。次にご紹介する7つの対処思考は、どなたにも参考になるのではないかと思います。
以上のうち、1、2、4は、子どもの年齢や気質を踏まえて「これぐらいはよくあること、ふつうのことだ」ととらえ、冷静になることを自分に促しています。3、7は、プラス思考で自分自身を励まして乗り切ろうとしています。5、6は、子どもがほかの選択肢をもっていないのだと理解し、寛容の気持ちで接するように自分を促しています。
どうでしょう。一番まずいのは、親が冷静さを失うことです。7つの思考法は、それを上手に防ぐためのマインドコントロールのしかたを教えてくれているように思います。
今回の記事は、マシュー・マッケイ氏の著作「怒りのセルフコントロール」をもとに書きましたが、氏は「親であるというのは、他のどんな職業や人間関係よりも、忍耐力と柔軟性と我慢強さが試されるものなのです」と述べておられます。この言葉には全く同感です。子育ての最中におられるおかあさんがたには、この三つの要素を忘れないよう胸に留めてがんばっていただきたいと思います。