算数はなぜ得意・不得意が生じやすいの!? その1
10月 20th, 2014
子どもの学力を決定づける要因として、いちばん大きなものは何だと思われますか? アメリカの心理学者の書物によると、欧米人は「先天的な才能」「遺伝で受け継いだDNA」をあげる傾向が強く、アジア人は「努力をしたかどうか」と考える傾向が強いそうです。
その学者は、日本や韓国、中国(大都市域〕、シンガポールなど、アジア地域の国の子どもの学力が相対的に高い理由としてこのことをあげ、「努力をすれば、学力は伸ばせる」という考えかたの重要性を説いていました。
ただし、こと算数・数学の能力となると、日本人の多くは「才能」や「センス」を問題にし、それらに恵まれるかどうかが学力を左右すると考える傾向が強いように思います。努力・勉強ではどうにもならない、壁のようなものを感じるからでしょうか。あなたはどう思われますか?
では、実際のところはどうなのでしょう。中学受験においては、算数、国語、理科、社会の4教科入試が一般的ですが、そのうち算数の点数のばらつきが最も大きく、合否を左右する傾向が強い(算・国は配点が高いケースが多く、それも影響していると言えるでしょう)ことはよく知られています。どうして得点差が大きくなるのでしょうか。
その理由として考えられるのは、得意不得意が生じやすい単元の存在です。たとえば、図形(立体図形、投影図、展開図など)や速さなどの単元は苦手意識の強い子どもがたくさんいます。これらの単元は、いわゆるセンスや閃きが問われ、暗記や記憶が通用しません。なかには極端なまでに苦手意識をもつ子どももいます。
ある課題について解法説明を丁寧に聞き、納得し理解しても(わかったつもりになっても)、いざ似たような別の課題に取り組んでみると、自力で正解にたどりつけない。そういうじれったい思いを、子どもの頃経験されたかたは少なくないでしょう。実は、こういった類の単元と、暗記や知識で対応できる単元とでは、同じ算数・数学でも求められる知能の種類が違っているのです。
ご存知かもしれませんが、知能には2つの種類があると言われます。一つは結晶性知能で、もう一つは流動性知能です。前者は、頭のなかで蓄えられた情報をもとに稼働する知能で、言語、知識、思考、判断などに関わると言われます。後者は、知識や思考が及ばない、予測がつかない状況のもとで稼働する神経系の知能です。図形の識別や空間把握、速度などの学習の際に威力を発揮します。
これである程度はっきりとしてきたかたもおられるでしょう。算数・数学の能力差が生じやすいのは、流動性知能の「個人差が大きい」という性質によるものではないでしょうか(もちろん、ほかにもあるでしょうが)。この流動性知能の発達がどのように推移するのかをグラフで見てみましょう。
この資料(レイモンド・キャッテルによる)を見ると、流動性知能の発達が著しいのは9~10歳前後までで、15歳頃には早くもピークに達し、以後は徐々に下降していくことがわかります。つまりこの知能には発達上の臨界期が存在し、その時期を過ぎると学習してもなかなか成果につながりにくくなるのです。
算数の図形課題や速さの単元は、まさに流動性知能の働きが期待される領域です。流動性知能の発達カーブを踏まえると、幼児から小学生にかけての学習体験次第でより上昇カーブを上向きにすることもできるでしょう。そうすれば、最高到達点の水準も上がっていきます。ですから、この知能の発達曲線の特性に合わせ、適切な時期にこの知能に刺激を与える体験をすれば、相当な成果を引き出すことができるのではないかと思われます。
弊社は、小学校低~中学年向けの講座として「玉井式国語的算数教室」を導入していますが、この講座の主要プログラムの一つである「かたちの形」は、明らかに流動性知能の発達を促すことを意図しています。また、オプション講座として導入している「パズル道場」も、流動性知能の開発に特化した教育商品です。前者は3D映像の特性を活かし、後者は様々な具体物(パズル)にふれさせるという、それぞれ異なる手法を採っています。
パズル道場では、「考えるのではなく、『あーでもない、こーでもない』と試行錯誤することが大切である」とアドバイスされていますが、こうした説明にも流動性知能の特色がよく表れていると言えるでしょう。つまり、言葉や知識の入り込む要素が少なく、直観や閃きに関わる神経に刺激を当てることを意図しているのです。
長くなりそうなので続きは次回にします。この知能の守備範囲にあたる勉強を苦手にしておられるお子さんに、何か対策はないかを考えてみようと思います。よろしければ引き続きお読みください。