算数はなぜ得意・不得意が生じやすいの!? その2
10月 27th, 2014
前回は、算数という教科が得意不得意の生じやすい理由として、「流動性知能の発達の個人差が大きい」ということ、そしてこの知能はどんな特色をもつのかなどについて簡単にお伝えしました。今回は、この種の知能の活動領域の単元が苦手なお子さんに、どんな対策が考えられるかをお伝えしようと思います。
もう一度、流動性知能の発達曲線を見てください。
ご覧のように、この知能が急カーブを描いて上昇しているのは9~10歳前後までです。後はゆっくりと上昇し、15歳頃には早くもピークを迎えます。そして年齢を重ねるごとに下降していきます。なんと、中学生頃ピークに達する知能なんですね。このことから、この知能を伸ばせる時期(小学生まで)に必要な体験をすることが有効であることをお伝えしました。
繰り返しますが、この知能は脳の柔らかい年齢のうちに急速に発達します。この波にうまく乗れる体験をすると問題を解くのが楽しくて仕方がなくなり、飽きることなく取り組むようになります。それが相乗作用を引き起こし、はたから見ると天才のように見えるほどの能力のもち主になることがあります。子どものころの環境や学習次第で、同じ人間なのに能力開花の道筋が全く違ってしまうのです。このこと一つとっても、「よい学習の機会に恵まれることは、ほんとうに大切なことだ」と思わずにはいられません。
ただし、この知能は結晶性知能と比較すると低下する年齢が早く、数学の専門家ですら30代になると早々に自分の衰えを感じることがあるとか。何ともショックな話です。筆者のような年齢になると、難しそうなパズル課題などを見ただけで、はじめから戦意を喪失してしまいます。仮に取り組んだとしても、おそらく脳の衰えで解を得るには至らないことでしょう(若いころでも無理かも知れませんが)。
では、9歳以降の学習で流動性知能を伸ばすのは難しいのでしょうか。確かに最適年齢を過ぎると伸びのカーブは緩やかになりますが、伸ばせないということではありません。たとえば、知能の発達カーブにはかなりの個人差があります。お子さんの成長が「ゆっくり型」であれば、取り組み次第でかなり伸ばせるかもしれません。
また、先ほどのグラフを見てもわかるように、15歳で発達のピークを迎えるわけですから、あきらめずに伸びる可能性を追求すべきです。それに、物事の可能性については肯定的な考えをもつほうが成功率は高いものです。
必要なことは、流動性知能の特性をよく知ること。そして、テスト対応のために解きかたを暗記しておくとか、たくさんの問題を解く練習をしておくなどといった発想で、子どもに勉強を無理強いしないことです(学習効果が得られないばかりか、算数嫌いの原因になる)。そもそも、流動性知能の働きが必要な課題は、暗記や知識、思考が及ばないのですから。
もしもお子さんがこの領域の学習を苦手にしておられるなら、まずはテストの成績とは切り離し、この種の問題の初級編に取り組むことから再出発するのも一つの方法でしょう。親子で同じ問題に取り組んで、楽しい競争をしてみるのもよいかもしれません(おとうさんが本気で勝って、「オレもまだまだいける!」とばかりに有能感に浸らないことが重要ですが)。この知能の発達を促すには、解決することの楽しさや喜びを味わうことに尽きるのです。
お子さんは、図形課題などを苦手にしておられませんか? もしもそうなら、まずは「こういう問題は好きなんだけど、なかなかテストで点がとれなくて…」という段階まで、辛抱強くお子さんを見守りサポートしてあげてください。なぜなら、「好き」という気持ちで取り組む勉強は苦痛とは無縁です。ですから、困難を乗り越えるうえでこれ以上の味方はありません。基本的でシンプルな課題に取り組む中で、「自分で解けた!」→「おもしろい!」→「好き!!」といったような流れができれば、伸び盛りの小学生なら1年で相当なリカバリーが望めるでしょう。
逆効果をもたらすのは、苦手意識を既にもっているお子さんに、難易度も考慮せずにたくさんの課題に取り組ませたり、解きかたを一方的に伝授しようとしたりすることです。ただでさえ自信を失っているのに、できもしない問題を次々とあてがわれるのですから、「いやだ」という拒否反応がますますひどくなり、挽回の可能性が失われてしまいます。お子さんの将来のためにも、今のレベルに即した課題に再挑戦することから巻き直していくことをお勧めします。
筆者の知っているお子さんは、この「算数は、好きなんだけど~」の、「好き」という感情が結局大学進学での学科・専攻選びにまで影響を与えました。「成績」以上に「好き」が決め手になり、さらには数学に打ち込む原動力になったのです。お子さんの算数学力について、とくに流動性知能に関わる要素に不安を感じておられるご家庭におかれては、「好きこそものの上手なれ」という諺を信じ、この原点に立ち返ってお子さんの前向きな学習を応援していただきたいと存じます。
結晶性知能については、次回以降に話題として取り上げてみようと思います。