男の子の受験勉強を軌道に乗せる その2
3月 16th, 2015
前回は、男の子の受験勉強を軌道に乗せるための親のサポートとして、「音読練習」を取り上げ、その効能と親の関わりについて一通りご説明したところで終わりました。今回は、2つ目~4つ目のサポートについて書いてみようと思います。
② 思考力・表現力は毎日の会話で育つ → 親が子どもの話し相手になる!
男の子は、女の子と比較すると総じて「幼稚」です。女の子にとって、男の子は会話の相手としてはいささか物足りない存在でしかありません。中学受験にあたっては、小学生としては高いレベルの思考力や表現力を要求されますので、こうした方面の成長をある程度意図的に促すような働きかけをすることも必要ではないかと思います。
男の子にとって、今日のできごとを理路整然と話すことは簡単ではありません。まして、自分の思いや意見を相手にわかりやすく話すとなると、はじめから尻込みをしてやろうとさえしない傾向があります。特にネガティブな感情をいだいた理由を相手に話すのは、女子よりも圧倒的に苦手だと言われます。
それは、腹立ちや悲しみ、不満などの感情が扁桃体と呼ばれる脳の古い部分で発生するのに対し、自分の気持ちを相手にわかるように話すために働く脳部位は前頭前野であり、男の子は両者を直接結びつける連絡網の発達が女の子より遅いということが理由かもしれません。そういったことがアメリカの学者の書物に書かれていました。
ともあれ、自分の思いや考えを話すことの経験は、できるだけ経験させたほうが子どもによいのは間違いありません。「それについてどう思うか、自分の考えを言いなさい」などと説教がましく言うのではなく、前述のような「今日あったこと」などについて聞いてやり、それをもとに子どもと楽しい会話の時間を過ごすといった程度のことを、毎日継続するだけでもよい影響をもたらすのではないでしょうか。
何しろ、男の子は自分のやったことを時系列に順を追って説明することすらままなりません。楽しい会話のなかにそうした要素が組み入れられているだけでも違ってきます。
今日の男の子に必要な存在。それは、「~でね、それからね……、あ、そうじゃなく、えーとね、……」といったまどろっこしい話しぶりに癇癪をおこさず、熱心に耳を傾けてくれる人ではないでしょうか。それができるのは、もちろんおかあさんしかいないことでしょう。こうした話しかたの練習に恵まれた男の子は、だんだんと確実に表現力を身につけていきます。おかあさんには、ぜひこの役割を引き受けていただきたいと存じます。
また、親子の楽しい会話は、親の愛情や期待を肌で感じ取る絶好の機会となります。上手にしゃべらせようとするのではなく、子どもの報告に耳を傾け、感想を笑顔で語ってやるだけでいいのです。そういう時間を親子で共有しているとき、たいていの子どもは「親の望むような人間になろう」という意識をもつと言われます。勉強の前に楽しい会話の時間を設ければ、「さあ、勉強だ」と切り替えもスムーズに行えるのではないでしょうか。
③ ノートを見れば勉強の様子がわかる → ノート点検でアドバイス!
前述のように、男の子は自分の体験したことを順序立ててわかりやすく話すことが苦手です。そのため、塾に通って学んだことを親にきちんと報告できません。その結果、「子どもは喜んで塾に通っているものの、何を勉強してきたのか、何がどう楽しいのかわからない」ということになりがちです。
親への報告や伝達が不足していても、勉強自体がうまくはかどっていれば「それはそれで仕方ない」ですまされるでしょう。しかし、勉強が空回りしているのに、ずるずると時間が経過しているとしたら問題です。そうしたリスクを避けるため、4、5年生までは「親が子どものノートを見る」ということをお勧めします。そういう約束をお子さんとし、継続的にノートを見てほめたり励ましたり、注意を促したりするのです(ただし、勉強の内容に親が関わり過ぎないことが重要です)。
親がわが子のノートを見るうえで心がけたいのは、「取り組んだ問題の誤答のみに着目して叱らない」ということです。子どもは、間違いを指摘されて怒られるとやる気を失ってしまうからです。まずは取り組んでいること自体をほめ、喜んでやることが先決です。
ただし、男の子は正誤について厳密な判断ができないことが多く、似たような答えだったらOKと勝手に都合よく解釈しがちです。そういう場合、頭ごなしに「これは×だろ!」といったような叱りかたをせず、間違っている部分を上手に気づかせる必要があります。やり直しの際は、誤答した部分を絶対に消しゴムで消さないことが重要です。直し用のスペースをあらかじめノートに決めておき、その場所でやり直しをするのです。以前どう間違えたのかを残しておくと、あとの復習で随分役立つからです。
子どもが取り組んだ問題の正誤をチェックし、間違えたところのやり直しをノートに必ず書くようにしていけば、それだけで相当な学習成果が現れるでしょう。また、授業の板書がノートに書き入れられているかどうかも見る必要があるでしょう。子どものノートを通じて、何をどう学んでいるのかが伝わってくるようなら、勉強は少しずつでも身になっていくのは間違いありません。
④ 男の子は学習の習慣づけを大切に → 短時間でも毎日続けたらOK!
男の子は、時間刻みに計画を細かく定めて行動するのが苦手です。それどころか、行き当たりばったりの行動が多く、立てた計画も長続きしません。そのいっぽう、気が乗ったときにはすばらしい集中力を発揮することがあります。
ただし、子どもがその気になるのを待っているだけではよい変化は生じません。いきなり長時間の勉強を期待するのではなく、毎日短時間でいいから決まった時間に机に向かう習慣をつけることをまずは最優先したいものです。
前述のような男の子の特性を踏まえ、細かな学習計画を立てるのではなく、できるだけシンプルな計画に基づく学習にすることが肝要でしょう。おかあさんから見たらでたらめで、到底許容できないような勉強でも平気なのが男の子です。性差というものがどうしても存在しますから、「私がかつて苦もなくやれたことが、どうしてできないの!」といった理由で腹を立てても仕方のないことです。
また、決めた時間内にやりきることができなくても、無理にやらせるべきではありません。勉強嫌いにしてしまうなど逆効果にしかなりません。繰り返しになりますが、まずは「習慣づけ」を優先してください。塾の授業で、他のお子さんがどの程度やってきているのか、どれぐらいやっていけばよいのかが分かってきたら、子どもは変わっていきます。
それに、以前も書きましたが、習慣づけが軌道に乗ってくると、勉強の面白さに気づくようになります。そうなると、勉強へのこだわりも出てきて、「もう少しやっておこう!」という気持ちも湧いてくるでしょう。そうやって、やがてはちゃんとした受験生としての勉強がやれるようになっていくのです。それまでの道のりにおいて、親はかなりストレスと闘いながらサポートを続けることになりますが、得た収穫は入試での合格よりもはるかに大きなものになります。自ら学ぶ強固な姿勢は、一朝一夕には身につかないものです。また、勉強の方法を間違えると、目先の中学入試には受かっても先の伸びしろの乏しい人間になってしまいかねません。
“大器晩成”という言葉がありますが、男の子の場合は特にこの言葉を信じたサポートが必要です。親が焦って伸びる芽を摘み取ってしまわないようにしたいものです。中学受験を終えたら、もうこんな関わりはできませんし、子どもも受け入れてはくれません。「今こそ親の出番!」と心得、わが子が伸びしろの豊かな人間に育つよう、辛抱強いバックアップをお願いいたします。