わが子をどのように叱っていますか? その1
3月 30th, 2015
前回は、子どもに言ってはいけない言葉のタブー集を記事にしてみました。「~という言葉は禁句です」といったようなことは、本来書きたくなかったのですが、筆者自身の子育て経験においても反省する場面がたくさんあったことを踏まえ、敢えて話題に取り上げてみました。多少なりとも参考にしていただけたなら幸いです。
親子の関係、特に母親と子どもの関係は他に比較対象が見当たらないほど密着した関係です。それゆえ、子どもは無論のこと親ですら感情をむき出しにした言葉を口にしてしまいがちです。しかし、子どもの脳に繰り返しインプットされた親の言葉が、子どものものの感じ取りかたや考えかたにどんな影響を及ぼすかを考えてみることも重要であろうと思います。
無論、これは「叱るのはよくない」という意味ではありません。特に、義務教育期間中までの子どもは常識も十分に身につけているとは言えませんし、我儘な面も抜けきっていません。ですから、親がわが子を叱るのは当たり前のことです。問題は、近すぎる関係ゆえに湧き上がってくる感情をどうコントロールし、わが子の素直な反省を引き出すかということでしょう。それがとても難しいことであると、大概の親は思っています。日本の親は実際のところ、どのような叱りかたをしているのでしょうか。そこで今回は、それを話題に採りあげてみようと思った次第です。
さて、本題に入る前に筆者自身のことを少し書いてみようと思います。筆者は若いころ主として6年部の男子クラスで国語の指導を担当していました。落ち着きのない男の子、しかも生意気盛りの年齢の男の子を相手に、退屈に思われがちな国語の時間を受けもつのですから、察していただけるでしょう。そう、叱りたくなる、叱らざるを得ないような場面がそれこそしょっちゅうありました。指導担当者と子どもの間には、親子のような血縁関係はありません。しかし、「もっとよくなってほしい」「どうしてちゃんと取り組めないのか」という苛立ちを抑えるのは、とても難しいことだったと記憶しています。その意味では、親がわが子を叱るときに伴う感情と似た側面もあったように思います。
そして、ときには筆者自身が「しまった、あまりに厳しい言葉で叱り過ぎた。これじゃ、あの子は塾をやめてしまうんじゃないか」と心配し反省するようなこともありました。こんな場合、次の回の授業にその男の子はやってくるでしょうか? やってくるとしたらどんな様子でしょうか? 実は、指導現場を退いたあと、同じような状況について話題にし、男の子が叱られたときの反応がどういうものかについて書かれている本(アメリカの学者の著書)に出合いました。ちょっとそのくだりをご紹介してみましょう。
わたしはある日、生徒のひとりに向かって、大声でどなってしまいました」中学校教師のティナ・スペンサーがそう打ち明けた。「とにかくいらいらさせられたんです。サムは頭のいい男の子なのに、まるで勉強に不熱心でした。宿題はまともにやってきたためしがないし、それである日、とうとう我慢できなくなって、教室のほかの生徒の前でどなりつけたんです。そんなつもりはなかったのに。思わず声が出てしまって。
そのあと心配になりました。彼が二度と口をきいてくれなくなるんじゃないか、親が怒って電話をかけてくるんじゃないかと。ところがつぎの日、サムは初めて宿題を完璧に、期限通りにやってきたんです(中略)
それから三週間後、彼の親から電話がかかってきました。もう、どんなに緊張したことか! きっと息子がどなられたことに腹を立てたんだろうって。でもちがいました。お礼の電話だったんです。あの一件のことは何も知らないみたいでした。サムは学校の勉強をすごくがんばるようになりました。どんな魔法を使ったのかときかれました。なんと答えたらいいのかわからなくて。ほんとうのことなんか、とてもいえないでしょう」
このような、面と向かっての対決というのは、ほとんどの女の子にはまったく誤った方法だ。「もし女の子にそんなことをしたら、どんなに短くても、その学期の終わりまで話しかけてはもらえないでしょう」ミズ・スペンサーはつけ加えた。女の子には、対決するのではなく励ますやり方のほうがうまくいくことは、多くの教師の報告からもわかる。
実験動物でも、ストレスのかかる状況下での学習には性差が見られる。ラドガーズ大学、プリンストン大学、ロックフェラー大学のメンバーからなるトレイシー・ショルス教授のグループは、ストレスがオスの学習能力を高めるのにたいし、メスでは低下させることを明らかにした。「ストレス要因にさらされたとき、メスの学習には、オスとは全く反対の影響があった」とショルス教授の報告にはある。
またストレスは、オスの海馬における神経接続の強化をうながすいっぽう、メスの海馬での神経接続の強化を阻害することもわかった。(後略)
どうでしょう。実は、筆者も大声で怒鳴りつけた次の授業のとき、「ちゃんと来てくれるだろうか」と心配していたのですが、何と爽やかな笑顔でやってきてくれました。「この間は、叱りすぎたな、ごめんよ」というと、「ううん」と小さく首を横に振り、その日は実に前向きな姿勢で授業に参加してくれました。男の子にはプライドがあるのでしょう。彼も親には何も伝えていませんでした。
この方法は女の子には絶対に適用すべきでないことは、筆者も知っていました。引用文にもあるように、女の子には改めるべき点を指摘して優しく励ますほうが効果的です。筆者にも、若いころには様々なしくじりがありました。たとえば、女の子を厳しく叱った後、「しばらく口をきいてもらえなくなる」ようなことも体験しました。
ある年、女の子のお子さんを担当したとき、「何があってもやかましく叱るまい」と決心し、勉強がうまくいかないお子さんには、徹底して自信をつけさせるような言葉で励ますことを試みてみました。国語の苦手なお子さんには特別な提出用のノートをつくらせ、1年間添削指導もしました。
するとどうでしょう。やがて彼女らが中学校へ進学した後も、「よい本があったら紹介してください」などと書いた手紙をくれたりしました。また、筆者のことをよく覚えてくれていて、大変ありがたい思いをしました。
以上は、指導する側がお預かりしたお子さんをどう叱るかに関する情報です。ですが、保護者の方々にも参考にしていただけるのではないかと思います。男の子とは、真正面から向き合いしっかりと叱ることも必要なのです。いわゆる「喝を入れる」といったような効果が男の子にはあるのでしょう。ただし、叱る理由に筋が通っていなければなりませんし、厳しく叱った後はあっさり切り上げることも必要です。いっぽう、女の子にはストレスを与えるように厳しい叱りかたではなく、問題はどこにあるのかを一緒に考え、改善すべきことについてアドバイスし励ますことが望ましいようです。
すみません。まだ本題に入らないうちに大変な文字量になってしまいました。今回はこれでひとまず終わり、次回は予定通り「日本の親はわが子を叱るとき、どんな方法を採っているのか」を話題に採りあげ、子どもを叱ることについてより詳しい考察をしてみようと思います。