“習慣”は学習に不可欠な推進力
4月 20th, 2015
同じように学習塾に通い、共通のカリキュラムに沿って同じテキストで学んでいても、子どもたちの学力状態は実に様々です。どうしてでしょうか。今回は、学力を順調に伸ばしている子どもと、うまく学力を伸ばせない子どもとの違いを決定づける要素の一つを取り上げてみました。
学力差の原因を「才能」と言ってしまえば簡単です。努力など意味をなさなくなってしまうでしょう。しかしながら、大人なら誰しも経験のあることですが、勉強に向かう意欲があるときは集中できるし成果も上がります。また、勉強法のコツがつかめればこれもまた成果を大きく左右します。よい先生やよい友との出会いは、子どもの勉強を一変させることもあります。自らに授かった才能を芽吹かせるための様々なファクターが稼働する仕掛けを、いかにして手に入れるかが学力を伸ばすうえでの最も重要なポイントであろうと思います。
問題なのは、意欲を引き出す要因や成果のあがる勉強のコツが人によって異なり、誰にも当てはまるわけではないことでしょう。また、子どもの場合自分で成果のあがる方法を見出すのは難しいですから、われわれ大人が子どもの個性を見極め、その子どもに合った勉強に行き着くよう導いてやらねばなりません。そこが難しいところです。
今回話題に採りあげる“習慣”(ルーティン)は、子ども一人ひとりの個性を云々する必要はなく、どの子どもでもそれを身につければ学習成果につながるものです。“習慣”が学習成果をあげるうえで引き出してくれるプラスの要素とはどのようなものかを考えてみたいと思います。
図書館でふとある本を手にしてみたら、当たり前のことが書かれているのにどんどん引き込まれてしまいました。その本の著者は、日本のプロ野球のトレーナーをしていた人で、後にアメリカへ渡り、あのイチロー選手のトレーナーも務めたかたでした。そのかたは、「ルーティン化(習慣化)することで物事への取り組みの成果をあげることが、日本人の特性に合っている」というようなことを書いておられました。
その人は、「ルーティンとは、同じ時間やタイミングで決まった行動を行うこと」だと述べておられます。その本で紹介されている“ルーティン化”のメリットは、中学受験の準備学習をしている子どもたちにも大いに参考になると思います。
たとえば、ルーティン化するとものごとが無意識にできるようになります。継続しているうちに無意識に行える様式になっていくのですね。そうやって、常に安定した結果を出し続けることができるようになるのです。イチロー選手は、1日をルーティン化することで、毎日のように続くメジャーリーグでの試合で安定した成績を残せるようになったといいます。そのあたりのことについて書いてあるくだりをちょっとご紹介してみましょう。
イチロー選手は、欧米人に比べると比較的体も細く、筋肉量も特別多いわけではありません。また高校野球は1回戦敗退、オリックスに入団したときもドラフト4位、1軍レギュラーに定着したのも入団3年目から、ということを考えると、誰もが認めるような天性の才能があったわけではなさそうです。
にもかかわらず、唯一無二の選手になったのは、毎日のルーティンによってプロの選手に必要な「心」「技」「体」を突き詰めたからだと思います。(中略)練習メニューにもストレッチ内容にも特別な「魔法」はなく、唯一違うのが、それを毎日継続しているかどうかなのです。
ひとつの技術を卓越したレベルまで押し上げていく職人さんや、製造業に浸透している「カイゼン(改善)」の精神も、日本人の「こつこつ」型のメンタリティが生んだものです。日本人精神の根底にあるこの強みは、私たちの仕事にも活かせるのではないでしょうか。
イチロー選手の習慣術は徹底しており、時差のあるアメリカにおいても起床時間を固定し、決めた時間に同じメニューの食事をとり、同じ時間に球場入りすると言われます。これらは、「試合でヒットを打つという行動を、失敗なく行うための手法」なのです。アメリカ大陸は広く、球場によって気候条件も様々ですし、個性的でレベルの高い選手がいっぱいいます。そんな中で結果を残し生き残るため、「自身が“コントロールできる行為”をルーティン化、つまり習慣化したのだ」と前出の本の著者は述べておられました。
ところで、イチロー選手のようなやりかたでメジャーリーガーとして成功した選手はほとんどいません。同じことを毎日継続するのは、欧米人にとってほとんど不可能なことのようです。しかしながら、われわれ日本人は、学校の授業を受けるときの挨拶、朝礼のときの隊列、夏休みのラジオ体操など、子どものころから一定の様式を繰り返して習慣化することに慣れています。ですから、日本人にとっては目標とする結果を引き出す方法として有効なのかもしれません。
ここで、中学受験対策の学習とルーティンの関係について考えてみましょう。弊社のマナビーテストで安定した成績をあげているお子さんは、予習(5・6年)や復習(4~6年)を常にコンスタントにこなしており、「やっていません」「忘れました」などということがまずありません。プリント課題の提出も溜めたりすることなく、期限までに必ず提出します。
いっぽう、成績が安定しなかったり、振るわない状態が続いたりするお子さんは、取り組みにむらがあり、提出物は遅れたり滞ったりしがちです。これは明らかに、取り組みをルーティン化しているかどうかの差であり、同じような能力のもち主であっても、成績が異なる主要な原因となっているのではないかと思います。
提出物管理がしっかりしているお子さんは、毎日決まった時間に勉強に取り組んでいます。一定時間勉強する習慣が浸透すると、その時間の勉強が定式化し、「何をいつまでにやっておくべきか」といったことを念頭に置いた学習が自然と行われるようになります。だから「忘れました」「やる時間がなくて、できませんでした」などということもなくなるのです。決めた時間に決めた学習をやることが身についているお子さんにとって、今述べたような理由は「はずかしい言い訳」以外の何物でもありません。
今からでも遅くありません。朝の起床時間、食事の時間、学校の宿題をやる時間、塾の勉強をやる時間、自由時間、就寝時間などの現状を親子で振り返ってみてください。おそらく、日によって計画がまちまちなお子さんほど、やるべきことができていないのではないでしょうか。
毎日やるべきことが無意識のうちにできるようになる。そのことは、勉強に対する身構えや苦痛な気持ちを随分和らげてくれるでしょう。また、ルーティン化(習慣化)すればやっていることの面白味もわかってくるようになります。
そのことについては以前も書いたことがありますが、今回は、ふと手に取った本を通じて再びそのことの大切さや効能を思い出すことになりました。お子さんの勉強に限らず、おとうさんおかあさんにとっても参考になる面があるのではないかと思います。