「今やろうと思っていたのに!」という言い訳について再び

5月 25th, 2015

 2013年8月5日に、「『今やろうと思っていたのに!』という言い訳の意味」というタイトルの記事を掲載したことがあります。

 この記事は、今も毎日のようにどなたかがお読みくださっています。中学受験生、特に男子の受験生をおもちになっているかたは、何度もこの言葉をお子さんから耳にされたのではないでしょうか。一向に机に向かおうとする気配のないわが子に苛立ち、「いつまでテレビを観ているの!」と注意したら、このような言葉が返ってきた経験はありませんか?

 最近、脳神経外科医の先生が書かれた本を読んでいたら、「悩み相談Q&A」のコーナーでこの言葉が目に留まり、「おやおやまたこの言葉か」と、思わず笑ってしまいました。5年生の男の子のおかあさんが、「うちの子はゲームが好きで、机の前に座っても、なかなか勉強を始めません。注意をすると、今、しようと思ったのにと言って怒り、違うゲームを始めたりします。………」といったような悩みが紹介されていたのです。

 さて、脳神経系の専門家の先生は、どのようなアドバイスをされたでしょうか。なぜ5年生頃の男の子がこういう言い訳を言うのかを説明しておられるので、みなさんにも参考にしていただけるかもしれません。今回はそれを話題にとりあげてみました。

 さて、上記の悩み相談に対して、この先生はどのように答えておられるでしょうか。一部をご紹介してみましょう。

 明らかに反抗期です。しかも、何が最も大切で、どの手順でものをこなせばいいのかがわかっていない時期です。しかし、ゲームに夢中になるなど、自分の好きなもの、興味を持ったものには才能を発揮し、考える思考のプロセスをスタートさせる力を持っています。言わば、自分をコントロールできない、自分を克服できない年齢なのです。

 反抗期は、けっして悪いことではありません。脳のなかで考えるしくみを動かすためには、自分にご褒美を与える自己報酬神経群の働きが大切で、自分からやると思わないと考える脳のしくみが機能しません。反抗期は、ちょうど、この自己報酬神経群ができ上がりつつある年齢なのです。このため、注意されると、自分からやっているという自己報酬神経群の機能を先に停められてしまうので、脳は不機嫌になって、みずから考える作業を止め(ここでは勉強することを止め)、自分の好きなほうに行ってしまいます。これが、「今、しようと思っていたのに」という言葉になって現れているのです。

 5年生は、自己報酬神経群(“快”を感じる神経群。意欲、集中力などに関わる)ができあがりつつある時期で、「自分の意志でやっていることだ」という気持ちを大事にする姿勢が強くなります。だから、自分が行為を適切な方向に修正する前に親から注意されると、自己報酬の気持ちを打ち消されてしまいます。つまり、プライドを傷つけられてしまうのですね。そのために子どもは機嫌を損ね、このような言葉で機先を制してきた親に反発するということのようですね。

 反抗期が、子どもの脳の発達過程で必然的に生じるものであるからこそ、この時期の子どもをもつ家庭では同じようなもめごとが起こるのですね。これで、「今、しようと思ったのに」という言葉が、なぜ小学校中~高学年頃の子どもから発せられるのかご理解いただけたと思います。そこで、今度はこういう場面において親はどう対処したらよいかを考えてみましょう。このことについて、前述の先生はどう答えておられるでしょうか。

 その先生は、重要なものから順に段取りをつけて片づける姿勢を育てる教育が十分施されておらず、自分の欲求をコントロールする能力も未発達な段階の子どもであることを踏まえ、次のようなアドバイスをされています。

 人生の先輩でもある親は、自分の経験談や失敗談を、普段から先輩・後輩の目線で語り継ぐことが大切です。こうしろ、ああしろと言うことは自己報酬神経群ができつつある反抗期の子どもには禁句です。自分からやってみるという気持ちを起こさせるためには、情報をさりげなく伝えるか、あるいは、自分にも同じような時期があって、そのため長いスランプを経験したことを話してあげるとよいでしょう。その上で、大変困ったとき、君だったらどうする、とか、もっといい方法を教えて欲しいとか、良い質問をすることです。頼りにされた子どもは、その答えを出すと同時に、自分の弱点にも気がついて乗り越えていくはずです。

 いかがでしょう。「さりげなく情報を伝える」「親の体験談を語る」「子どもに質問する」などが提案されています。参考になったでしょうか。5年生ぐらいの子どもには、命令や禁止の言葉はもはや反発を招くだけで、言っても何の効果も引き出せません。それを踏まえたうえで、子どもの目線に立ち、子どもが素直に聞き入れ、どうしたらよいか冷静に考えられよう配慮した働きかけが、親には求められるようですね。

 昔のことですが、筆者も息子に中学受験をさせました。親の期待とは程遠い取り組みの様子に苛立ち、「おまえの勉強には計画性や戦略性が欠けている」などと注意しましたが、子どもの反発や癇癪を招くばかりで、何の効果も得られなかったことを思い出します。今にして思えば、あの年齢の男子に「戦略性」など期待するほうが無理というものでした。

 すでに社会人になっていますが、今でも仕事の話をするとき、親が“上から目線”で忠告すると、はっきりと不快な表情をします。逆に、「そういう悩みは、私にもいっぱいあったよ」「どうしようか、随分悩んだものだよ」などと言うと、却って明るい表情に変わります。おそらく、「誰でも同じように悩むんだ」と安心し、今ある問題に向き合おうという元気が生まれてくるのでしょう。「子どもの気持ちに寄り添った対応」は、甘やかしではなく、子どもを勇気づけるものなのですね。

 さて、わが子が勉強すべき時間になっても相変わらずテレビを見ている場面に戻りましょう。あなたなら、今度はどういった対応を試みるでしょうか。中学受験生をおもちで、こういう光景にまだまだ直面しそうなかたは、ぜひ考えてみてください。そして、その言葉かけがお子さんをよい方向へと導きますように。

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